heartdiary1224’s blog

『心の中の大切な日記』 誰かの勇気につながってほしい。。そう思って書かせていただきました。

第4章 ふたりの楽譜

あれから数週間が経過した。


今日は朝8時におばあさんの家に集合だ。
三人はお花見に行く約束をしている。
俺は自転車に乗りおばあさんの家に向かった。

『おはようございます!!』

『おはよう。健ちゃん!』
『もうすぐバスが来るからバス停に行こッ!』
二人は玄関で待っていてくれた。

三人はいつも以上にハイテンションだ。
バスに乗り、桜で有名な公園に向かった。

日曜の朝早いためか
誰もいないバスの中は
俺たちの楽しげな声だけが響いていた。。

30分後に公園に到着した。

『うわぁ。。綺麗やなぁ。。』

『綺麗やなぁ。。。』

『桜でいっぱいやッ。。』

公園は満開の桜でいっぱいだった。

三人は桜の美しさに感動し
公園の入り口で思わず立ち止まった。

朝早いが公園にはたくさんの人がいた。

公園をぐるっと1周した。

おばあさんは少し疲れた様子だ。
大きい桜の木の下に
小さなゴザを敷き座った。

座ると近くで一人の男性が
トランペットの練習をしていた。
途中で鳴り止む事もあるが心地よい響きだ。

二人はじっと見ていた。

『香織のこと、思い出すな・・・』

『そうやなぁ・・ゆりちゃんもそう思う。。』

『香織とゆりちゃん
 私の誕生日に演奏を披露してくれたな。。』

『そうやったなぁ。あの時は結構、練習したな~』

『そうか、ゆりちゃんの
 フルートもうまかったよ!』

『なんか、懐かしい響きで思い出した。。』

2年前のおばあさんの誕生日に
香織さんとゆりが自分達で曲を作り
おばあさんに披露したらしい。 

おばあさんは懐かしそうな目で
男性をみつめていた。

『おばさん・・・
 今年の誕生日、演奏会するでなッ!!
 楽しみにしといてな。。』

彼女はおばあさんにニコッと微笑んだ。

『ありがとう。。楽しみにしとくわな。。』

『今年は凄いんやで~
 健ちゃんも演奏会に参加するでなッ!!
 ねッ、健ちゃん!』

『えっえ、俺、楽器というか・・・
 楽譜も読めへんで・・・』

『大丈夫、私が教えるから。
 まっかせなさい!!』

『あ・・ぁ・・。わかった。。。
 おばさん、練習するから
 楽しみにしていてな!!』

『こりゃ。楽しみ。。 楽しみ。。
 二人ともありがとうな!』

『さぁ、少し早いけど弁当食べよっか!』

二人は朝6時から今日の昼食を作ってくれていた。

『健ちゃん、いっぱい食べてな!!』

『うおぉ。すごい!!』

三人は青空の下で
桜を見ながらおにぎりを食べた。

周りもにぎやかでいろんな人が
笑いながらお弁当を食べている。


俺たちも話が盛り上がり
大笑いしたりして最高の時間だ。


心地よい春の風と空の青さが心を癒した。


あれから1週間が経過した。

二人は学校の帰り
ホームで待ち合わせをして海に向かった。

春の温かい風が心地よく吹いていた。

砂浜にあるいつもの流木の上に座った。

『ジャーン!』

彼女は鞄からフルートを取り出した。

『すごいなぁ。フルート!!
 初めて見るわ。フルート!!』

『前、おばさんと話したやんなぁ。
 これで演奏したんや。。
 これッ、私の死んだお母さんが
 保育園の時くれたんや。。
 お母さんが大切にしてたんや。。。
 だから私の宝物!!』

彼女のお母さんは学生の時から
吹奏楽部でフルートを演奏していた様子だ。

彼女は嬉しそうに話した。 

『香織と演奏した曲、聴いてみる。。』

『聴きたい!!!』

彼女は静かに演奏し始めた。
心地のいい曲だ。

俺は今まで見せた事もない
彼女の姿をみて不思議な感じだった。

波音とフルートの音色が重なりとても癒された。

空はゆっくりと紅く染まってきた。

この日から二人はおばあさんの誕生日に
喜んでもらおうといろいろと相談した。


そして数週間が経過した。


二人はおばあさんの家にも遊びに行っていたが
誕生日の演奏のことは内緒にしていた。

なんだかおばあさんを楽しませる
二人だけの秘密のような感じでワクワクしていた。

俺の家の押し入れには親父が使っていた
古いフォークギターが昔から眠っていた。

そんなことで彼女のフルートに合わせて
ギター演奏をすることに決まった。

彼女はギター演奏もできるので
この日から俺はギターを教えてもらった。

歌の題名は『涙晴の空』

俺が作詞をし、それに彼女が曲をつけた。
題名は二人で考えた。

二人は何度も海に行き、練習を重ねた。
・・・というより海でこの曲を
演奏する事が当たり前のようになっていた。

『健ちゃん・・
 このノートじっくり見て練習してなッ!』

『わああぁ、ありがとう!!
  ゆり、これ書いてくれたん!』

『うん、焦らないでゆっくりでええよ。。
 一緒に練習してこなッ。。
 おばさん、喜ばそうねッ!!』

ノートにはギターの演奏の仕方が
1ページ1ページ細かく書かれていた。

おばあさんの誕生日までまだ半年近くあるが
彼女の演奏はバッチリになっている。
俺のギター演奏はイマイチだが・・・。 

静かな海の波音とフルートの音色は
二人にとって癒しとなっている。


あれから数ヶ月が経過した。

二人はこの数ヶ月
バイトの休みを合わせて
海に通っていた。 

夏休みになりここ最近
毎日、海に通っていた。

今日もホームで待ち合わせ海に向かった。

いつもの流木の上に座り
海を眺め楽しそうに話す二人。

もちろん今日も演奏をした。

『ゆりのフルート、心癒されるというか・・・
 すごく落ち着くな。。
 絶対、おばさん喜ぶわ!!』

『健ちゃんの詩もいいなぁ。。
 ぜったいおばさん喜ぶと思う。
 おばさん、いろいろあったから
 楽しませたいんや!』

『絶対、おばさん喜んでくれる!!』

二人はおばあさんを
喜ばすことが物凄く楽しみだった。

俺にとってゆりのいきいきとした表情を
みることも毎日の楽しみだった。   

『さあ、帰ろうか!』

今日は練習を長くしたから
日が沈み、暗くなっていた。

二人は立ち上がり
楽譜と楽器を鞄に入れようとした。

・・・二人が帰ろうとした時
激しいバイク音が停止し
向こうの砂浜から5人位の暴走族が近づいてきた。

『おーい!お前ら暇そうだな!!!』

距離は30メートル位離れている。

『やっ、やばいぞッ。。ゆり!逃げるぞ!!』
『健ちゃん、急ごう!』


二人は鞄を抱え思いっきり走った。

『なんじゃあーー!!!
 お前らーー!待てやッ!!』

俺は後ろを向いた。
後ろの5人は必死に追いかけてくる。

必死に逃げる二人。

二人とも足が速いのか
追いかけてくる連中の足が遅いのか
距離は少しずつ離れている。

しかし諦めずにいつまでも追いかける連中。

その時、ゆりが『アッ!』と声を上げた。

とっさに鞄に入れたフルートが落ちたのだ。
急いでいたので鞄のチャックもしなかった・・・。

振り返りながら走る二人。
連中も大声を上げて追いかけてくる。

俺は走りながらゆりに話した。

『ゆりはとにかく逃げろ!!
 とにかく逃げろ!!駅まで走れよ!』

『ええっ!健ちゃんは!!』

『とにかく駅まで行けッ!
 行って助けを呼んでこいッ!!』

俺はそう言うと同時にギターを足元に置き
連中の方へと走って行った。

後ろではゆりが大声で叫んでいる。

『健ちゃんーーー!!!』

『ゆり!!走れ!走るんやーー!』

俺には前から走る連中の姿は目に入らなかった。
ただフルートを・・・
という気持ちでいっぱいだった。

『これッ、私の死んだお母さんが
 保育園の時くれたんや。。
 お母さんが大切にしてたんや。。。
 だから私の宝物!!』

笑って話してくれたゆりの顔が浮かんでいた。


そのことを思うと同時に
フルートを覆うように地面に倒れた。

『おい!!!
 お前、何、俺らから逃げとんのやッ!!
 腹立つ奴やなぁ
 俺たちはお前たちが
 逃げたから追いかけたんやッ!!
  ・・じゃなくて最初から
 目つけてたんやけどなー』

連中の大きな声が砂浜に響き渡った。

後ろを振り返るとゆりは遠く離れている。
連中の一人がゆりを追おうとした。
俺はその男の足を掴んだ。
その男は後ろに倒れた。

『痛いなぁ!なんちゅうガキや!!』
『なんじゃッ、このガキ!!』
『それにお前、何を大事に隠してるんやッ!!!』
『こらッ、見せろや!!
 逃げてたくせによッ・・
 戻ってくるところをみると、財布かッ。。』

連中は俺が隠している物を取ろうとした。
俺はフルートを覆うように
ずっと地面に倒れたままだ。

『なんやッ!コイツ!
 早く、財布だせッ!コラーーー!!!』

俺は絶対に見せようとしなかった。

連中のひとりが俺の顔面に蹴りを入れた。
それと同時に全員が全身を力の限り蹴り始めた。

『コラぁぁ!!しぶとい奴ーー。見せろッ!!』

そう叫びながら全身を蹴る連中。
俺は海老のように丸くなり
絶対にフルートを見せなかった。

頭のなかでおばあさんと彼女の
笑顔が交互していた。

意識は朦朧としてきた。

でもフルートだけは離さない・・・
この思いだけが俺の意識を守った。  

その時、彼女は駅の交番で
警官に助けを求めて海岸に
パトカーで向かっていた。

かすかにパトカーの
サイレン音が聞こえてきた。

連中はバイクに乗り逃げて行った。

砂浜にはただひとり
俺が倒れていた。

『健ちゃん・・・・』

ゆりは震えていた。

俺は血だらけになり微笑んだ。

『ゆり、これ!宝物。。』

俺は服の中に入れてあったフルートを
血だらけの手で彼女に手渡した。

救急車のサイレン音が
だんだんと近づいてきた。

『健ちゃん・・・・・』
ゆりの声がかすかに聞こえた。