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heartdiary1224’s blog

『心の中の大切な日記』 誰かの勇気につながってほしい。。そう思って書かせていただきました。

第6章 思い出の場所

あれから2週間が経過した。

俺は順調に回復して
ゆりは毎日、病院に顔をみせてくれた。

明日から大部屋に移動予定だ。
最近、少し元気になり退屈な一日となってきた。

今日もぼんやり外を眺めていると
ドアをノックする音が聞こえた。

ドアの方を見るとおばあさんとゆりが
そっと顔を覗かせた。

『健ちゃん!おばさん連れてきたよ!!』

『あっ。おばさん!ありがとう!』

『健ちゃん、大変だったなぁ。。』

『はい。。階段から転げ落ちて・・・
 俺って本当にドジというか・・』

二人はおばあさんに心配させたくないので
階段から転んだと伝えてあった。

『りんご食べてな!』
おばあさんは微笑みスーパーの
袋に入ったりんごをくれた。

『ありがとう!!』

おばあさんと会うのは久しぶりで
いろいろな話をした。
ゲートボールの話。
近所のおじいさんの話・・・・。

そして、ゆりの話もした。
ゆりは毎日、おばあさんの家で夕食を作り
二人で食事をしている様子だ。
昨日も俺が少しずつ元気になっていると
嬉しそうに話していたらしい。

『健ちゃん、また治ったら家に遊びに来てな。。
 待っとるからな!
 今日は近くまで来たで墓参りに行ってくるわ!』

香織さんとご両親のお墓は病院から
歩いて10分位の場所にあるそうだ。

『おばさん、俺も行ってもええかな・・・』

俺はナースコールを押した。
看護師に聞くと短時間の外出ならば・・
ということで外出が了解された。


ゆりに肩を支えてもらい車椅子に乗り
病院の外へ出た。

蒸し暑く、太陽が眩しい。
久しぶりに外の空気を感じた。

病院から500メートル位歩いた所に
お寺がありそこにお墓があった。
桶に水を汲み、お墓へと向かった。

『今日も暑いなぁ・・・』
おばあさんはお墓に優しく話し掛けた。

『新しい花が供えてあるわ!
 誰か来たんかなぁ。。』

『私。。 健ちゃんの病院から近いし・・・』

ゆりは病院に寄った帰りに
いつもここに来ていた。

『ゆりちゃん、ありがとうな!!』

ゆりは静かに微笑んだ。

三人はお墓に手をあわせた。

俺はゆりの優しい気持ちに癒された。

『健ちゃん、ありがとうな。。
 嬉しいわ。ありがとうな!!
 私なッ、ゆりちゃんと健ちゃんが
 いてくれるから元気なんやで。。
 いつもありがとう!ありがとうな!!』

おばあさんはにっこり微笑んだ。

『俺もおばさんが元気でいてくれるから
 元気な気持ちになれるんやで~』

『うん、私も同じ!
 おばさんありがとうな。。』


三人の上には透き通る青空に
スッと長い飛行機雲が浮かんでいた。

おばあさんは病院の近くに住む友人に
久しぶりに会うのでここで別れた。

ゆりは俺の車椅子をおし病院へと向かった。

『健ちゃん、痛くないの。。』

『そらぁ、ギブスしてるから少しは痛いで。。
 だけど、だんだん良くなってきてるしな!!』

『ありがとう!!
 本当やったら私が入院していたかもしれん。 。
 健ちゃんが守ってくれたから・・・。』

俺はどう答えようか少し戸惑った。

『・・・ああ。そうだとも!
 正義の味方~木下健介!!
 大切なゆりと大事な宝物!
 二つも守れてこれだけの怪我ですんだんや!!
 きっと神様が俺らの味方
 してくれたんやと思う。。』

二人は缶ジュースを買って
近くの公園に寄り道した。

そして、いっぱいいろんな話をした。

急にゆりがダルマさんが転んだをしようと
言い出した。

俺もはしゃいで車椅子のまま 木に顔をつけ
『ダルマさんが転んだッ!』と言った。

ゆりはゆっくりゆっくり近づいて来る。

俺も童心に帰り、夢中で振り返る。

二人とも心の底から笑った。

『健ちゃんといると楽しいわ・・・。
 ふたりでダルマさんしてても面白いッ!!』

『俺も楽しい!!またおばさんも
 一緒にやろなッ!』

『そうだね!おばさんやり方わかるかな。。』

『わかるって・・・二人で説明しよう!』

『そうやな。。
  ・・・・・健ちゃん、今日はごめんなっ!』

『えっ。。何がごめん。。』

『あぁ、何にも。。。』


俺はゆりの『ごめん!』が少し気になった。


二人は病室に戻った。


俺はベットに横になり少し眠った。
目を覚ますと部屋の中は夕焼けで
オレンジ色に染まっていた。
横を見るとゆりも椅子に腰を掛けたまま
眠っていた。

ゆりの寝顔は優しい顔をしている。
いろいろなことがあった。
辛い日々もたくさんあった。

ゆりを幸せな気持ちにしたい。
喜ばせたい。
一緒に歩きたい。。
ずっと一緒にいたい。。

俺はゆりの優しい寝顔をみて
そう思った。

しばらくしてゆりは目を覚ました。

『ごめん。。健ちゃん。寝てしまったわ。。』

『ああ。俺も少し寝てしまった。
 ダルマさんで疲れたんかなぁ。
 思いっきりはしゃいだでな~』

『そうやなッ。健ちゃんの足が
 治ったらまたやろな。
 今度は私が鬼になるからなッ!』

ゆりは立ち上がり
窓の外を眺めた。

『健ちゃん、すごい~夕焼け綺麗!!』

肩を支えてもらい外を眺めると
空一面がオレンジ色に包み込まれ
太陽が山に沈んでいく瞬間だった。

『綺麗やなぁ~』

二人は空の鮮やかさに言葉を忘れた。


そして自然に向き合いキスをした。

二人にとって初めてのキスだった。


あれから1週間が経過した。


俺は六人部屋に移っていた。

ゆりは夏休みということもあり
朝早くから夕方まで病院にいた。

あまり大きな声で話すことができず
静かに座っている。

そこで俺が静かに話し掛けた。

『ゆり、明日、フルート持って来いよ。。』
『えっ?。。わかった!』

二人は小声で会話しにっこり笑った。


翌日、二人は病院の屋上にいた。

『健ちゃん、どうしたんこのギター。。』

『これさぁ。
 リサイクルショップで売っとったみたいで・・
 母さんが買ってくれた!!
 しかも2000円やでッ!!』

『もうそろそろ誕生日に向けて
 練習しなきゃなぁ!!』

『また、一緒に練習できるねッ!!嬉しいッ!!』

ゆりはフルートを吹き
俺はぎこちないギター演奏を始めた。

『涙晴の空』だ。

二人はおばあさんの誕生日の為に
この日から練習を再開した。

澄んだ青空の下で演奏した日もあった。
夕焼け空を見ながら演奏した日もあった。

いつだって空に見守られながら
二人の小さな夢に希望を抱いていた。

ゆりの演奏は俺にとって
病院にいる寂しさを癒してくれた。


あれから数週間が経過した。


俺は退院し、リハビリの成果か足の骨も元に戻り
松葉杖はほんの支えだけになってきた。

二人は学校の帰りに駅のホームで待ち合わせ
電車を降りると必ずゆりが
ベンチに座り待っていた。

二人が階段を降りようとした時
俺の肩を誰かが叩いた。

駅員の牧野さんだ。

『久しぶりやなぁー!足、どうしたんや。。
 大丈夫か?』

『あぁ。。ちょっと転んで・・・』

『そうか。。階段は特に気をつけてなッ!!
 俺の肩につかまり!!!』

ホーム全体に響く位、元気のいい声だ。

俺は牧野さんの肩につかまり
ゆりが後ろで背中を支えながら
ゆっくり階段を降りた。

『俺がおる時は声かけてくれな!!
 肩ぐらいやったらいつでもかすから!!』

『ありがとうございます!!』

二人は改札口を出た。

『健ちゃん、待っとって。。』
そう言ってゆりは駐輪場へ走って行った。

『健ちゃん、久しぶりの二人乗りやなぁ!!
 しっかりつかまるんやでッ!!
 つかまらんだら~落ちてしまうよ~~』

ゆりがペダルを漕ぎ、俺が後ろに座り
松葉杖を横にしながら
おばあさんの家へ向かった。


ゆりは、思いっきりペダルを漕いだ。


爽やかな風だった。


おばあさんの家に着いた。

もうすぐ香織さんが亡くなって
1年が経過しようとしている。


二人は家に入ると
すぐに仏壇に手をあわせた。

『ありがとうな。。
 ゆりちゃん・・・健ちゃん。。
 いつもありがとう。。』

おばあさんは
何か寂しそうな表情をしている。


沈黙の時間が続いた。


しばらくしておばあさんはタンスの中の
老人ホーム案内のパンフレットを取り出し
自分の気持ちを伝え始めた。

『あのなぁ。私・・
 老人ホームに行こうかと思っとるんよ。。  
 ここやと料理も出るし、世話もしてくれる。
 ゆりちゃんと毎晩、食事をするのは
 もちろん楽しい!
 だけど、いつまでも・・・
 ゆりちゃんの世話になるのは悪い・・・
 前から思ってたんよ。。
 ゆりちゃんには
 ゆりちゃんの人生がある。』 

『おばさん、私はおばさんといると楽しいよ!
 私はここの場所が大好き。
 おばさん!おばさん!!』

『でもなッ、おばちゃんは
 ゆりちゃんの人生を大切にしてほしいんや。。』

二人の頬には涙が流れていた。

おばあさんの誕生日の
2か月前の出来事だった。

おばあさんは素直な気持ちをいっぱい伝えた。
そしてゆりは納得した。

『ゆりちゃん、健ちゃんとの
 思い出は私の大切な宝物。。
 この宝物を胸に老人ホームで暮らすわ。。』
 
そう言いながらおばあさんは
にっこりと微笑んだ。

その顔はどことなく寂しげにもみえた。

二人は公園に向かった。

ゆりはうつむき寂しげな表情をしている。
カラスの鳴き声が虚しく響く。

『ゆり。。おばさんが決めた事や。
 これもおばさんの生き方かもしれん。
 別にずっとおばさんに
 会えないわけじゃない。。
 いつだって会える!
 おばさんの誕生日、盛り上げよう!!
 おばさんを喜ばしてあげよう!!
 それが俺たちのできることかもしれへん!!』



しばらく沈黙が続いた。



『そうや。。そうやなッ!!
 それが私たちの今できることかもしれやんな。』

ゆりは静かに微笑んだ。

それから二人は日が沈むまで
演奏の練習をした。


あれから数日が経過した。

2週間後におばさんが老人ホームに
入居することが決まった。
そしておばあさんの家が壊される日も決定した。
家の中には家具や日用品がたくさんあるが
老人ホームには必要ない。
近所の人たちが日用品を貰いに来ている様子だ。
俺とゆりも学校が終わると
引越しの手伝いをした。

手伝いに来ている近所のおばさん数人が
ひそひそ話をしていた。

『あの子のせいで秋野さん、可哀想にな。。』
『なんで、あんな子がこの家にいるの・・・』
『・・・あの子が・・・
 殺したようなもんやで・・・』
『えっッ。そうなんだ・・!
 そんなことがあったの・・・』
前から住んでいる人たちが
引っ越してきたばかりの人たちに
昔の出来事を説明していた。

俺はたまたま耳にした。

悲しかった。
寂しかった。
悔しかった。

そして俺はそのおばさんたちに
思っている気持ちを吐き出した。

『あなたたちに何がわかるんですか。
 ゆりは・・・ゆりは・・・
 おばさんが大好きなんです。。
 おばさんが大好きなんです!!
 あなたたちにあいつのつらさ・・・
 おばさんの気持ちがわかるのですか。。
 おばさんの幸せを今、一番心から願っているのは
 ゆりだと思います・・・・・・・・・・・・』


目からは自然に涙が溢れ
何を言っているかわからなかった。

ただ、今まで押さえ込んでいた気持ちが
心の中で爆発したような感じだった。


振り返ると後ろにはみんなに配るジュースが 
入った袋を片手にスーパーから帰った
ゆりとおばあさんが立っていた。

おばさんたちは間が悪そうに
そそくさと台所の方へ行った。


ゆりはずっと聞いていた。


『健ちゃん、もうええって。。
 健ちゃんだけでも私のことを
 わかってくれてたらいい。。。』

静かにそう囁いた。

おばあさんは台所の方へ早足で行った。

『あんたら、ゆりちゃんのことを
 悪くいったら承知せんでッ!!!
 ゆりちゃんは香織の親友。
 そして私にとって孫みたいなもんやッ。
 あんたらは昔話のように話すだけやけど
 ゆりちゃんは私に1番親切にしてくれてる。
 あんたらは人の陰口言ってるだけやッ。
 出て行ってッ!!』

おばあさんも涙を流しながら怒った。


おばさんたちは台所にあった日用品を持ち
気まずそうに無言で帰っていった。


三人は泣いた。
悔しかった。


『おばさん、ありがとう。。』

『健ちゃん、ありがとう。。』

ゆりは声を震わせながらうつむいていた。

『ゆりちゃん、当たり前やん。。
 あんたは何も悪くない!!
 私にとって大切な孫。。
 これからもずっと・・・・』

『おばさん・・・おばさん・・・』 

『ゆりは何にも悪くない!!
 おばさんありがとう。。
 俺も嬉しかった・・・・・』

『健ちゃん・・・・・』



しばらく沈黙が続いた。



『なぁ、三人でダルマさんが転んだしやへん!
 ゆりが鬼をしろよ。。』
『ええよ。。やろうッ。。』

『何。。ダルマさんが転んだって・・・』

『おばさん、やり方教えるなッ!!』

二人はおばあさんに説明し居間で
ダルマさんが転んだをした。

おばあさんは初めてのわりに上手だった。

『えっ。今、動いたで!動いた!!』

『動いてへんって!』

居間の中には大きな声が響いていた。

とても楽しかった。
三人は思いっきり笑った。

窓にはオレンジ色の夕日が照らされ
いわし雲がたくさん浮かんでいた。

あれから数週間が経過した。


俺は松葉杖もなく
普通に歩いている。

二人はおばあさんの
家の中を片付けている。
家の中も家具などが無くなり
広々としている。

ゆりは香織さんの部屋の掃除をすることにした。

部屋の中は香織さんが亡くなった日以来のままだ。
ゆりは久しぶりに香織さんの部屋に入った。

『健ちゃん、香織とここでよく遊んだんや。。  
 懐かしいなぁ。。』

二人が仲良くピースをしている
小学時代の写真が机の上に置いてある。

ゆりは懐かしそうな
そして寂しそうな顔をしていた。

おばあさんの誕生日の前日
ここで夜遅くまで練習したこと。
宿題を一緒にしたこと。
夏休みの工作を作ったこと。
恋愛について話したこと。
将来の夢を語ったこと・・・・

いろんな思い出を伝えてくれた。

ゆりは参考書や雑誌を紐で束ねたり
家具の中の整理をし始めた。

俺は軍手をはめて
1階にいるおばあさんの手伝いをしに行った。

家具の横に通学用の鞄が置いてあった。
ゆりは鞄を開けた。
鞄の中は事故の日のままだった。

その中に一冊のスケジュール帳があった。

ゆりはこれを開いた。

1階にいた俺は
2階にいるゆりを呼んだ。

『おーい、ゆり!タンス下に運ばへんかッ!!』

・・・・返事がない。

俺は階段を昇った。

部屋を見ると、そこには涙を流し
肩をすぼめるゆりの姿があった。

ゆりの前にはスケジュール帳が置いてあった。
スケジュール帳はゆりの涙で濡れていた。

『今日は喫茶店にひとりで寄った。
 今日、失恋した。
 ゆりと純也は付き合っていた。
 今日、公園で二人を見た。
 少し寂しいけど、しょうがない気もする。
 それに気づかなかった私が悪かった。
 ゆりには話してほしかった。
 ただ伝えてほしかった。
 小3の時もそうだった。
 お父さんに会いたい。
 ゆりはまた私の大好きな人を奪った。
 つらい。。』


そう書いてあった。 


香織さんが亡くなった日の日記だった。