heartdiary1224’s blog

『心の中の大切な日記』 誰かの勇気につながってほしい。。そう思って書かせていただきました。

第7章 からまわりの時間

香織さんにとって最期の日記


そこには心の奥底に眠っていた
寂しい気持ちが綴られていた。


ゆりはうつむきながら静かに言った。 

『香織・・
 私と純也が付きあっとると
 誤解していた・・・・』


『・・・私と純也が公園で
 話していたのを見てた・・・』

『でも・・・あれは・・・
 ゆりが香織さんのために
 伝えに行ったことなんやろ・・・ 
 ゆりは何にも悪くないやん・・・・』

『健ちゃん・・・香織・・
 電車で泣いてたんやろ。。
 勘違いさせた私が悪い・・・
 香織・・辛かったにちがいない・・・』

『ゆり・・・ゆりッ。。
 お前が自分を責めることはない!!』

『私・・・私・・・最低・・・・』

ゆりはそういうと同時に
急いで階段を降り、家を出て行った。

俺はスケジュール帳を
握り締めたまま必死に追いかけた。

ゆりは公園まで走り息を切らせて立ち止まった。

『ゆり・・・ゆりッ!!』

ゆりの顔は涙で濡れていた。

『私、私・・・最悪!!!
 香織をまた悲しませた。。。
 小学校の時も香織を苦しませた。
 あの時、ボールを投げやんだら
 おじさんも死なへんだ・・・。
 ずっとずっと苦しませてたんや。 。
 私は香織の大切な気持ちを奪った・・・。』

ゆりは涙を流しながら大きな声で俺に叫んだ。

『ゆり・・・それは違う。
 ゆりは香織さんを守った!!
 いじめられている香織さんを守っとった!
 何にも奪ってない。。
 おじさんもそう思ってるはず!!
 おじさんも香織さんを守る気持ちで
 川に飛び込んだんや。。
 溺れている香織さんを黙って
 見てることができないから
 川に飛び込んだんや。。
 ゆりも同じやろッ。。
 香織さんと友達だから守ったんやろ。
 だから・・・だから・・・
 ゆりは何も悪くない!!』

『健ちゃん・・・・。
 でも今は健ちゃんと一緒におるんがつらい。
 健ちゃんと私の出会いも
 もともとは香織がきっかけやった・・・・。
 今は・・・今は・・・つらい。。』


そう言ってゆりは走って行った。


空は夕焼け一面に覆われ
カラスが寂しげに鳴いていた。


俺はスケジュール帳を
もう一度読んだ。


『ゆりはまた私の大好きな人を奪った。』

ただこの一行が悔しくて。
ただこの一行の心のすれ違いに腹が立ち。
涙が自然に溢れ出た。

いつの間にかスケジュール帳を
手でギュッと握り締め地面に膝を付け泣いていた。


ゆりと香織さんの心のすれ違いと
偶然にも電車で俺が見た
香織さんの最期の涙の意味にただ悔しかった。


公園のライトも点灯し空は真っ暗になっていた。

俺は気持ちが真っ黒の状態で
おばあさんの家に向かった。

『健ちゃん、遅かったなぁ!
 心配してたんやで。ゆりちゃんは。。』

『あぁ・・。先に帰ったみたい。。』

『ゆりちゃん、泣いて
 走って行ったけどなんかあったん。』

おばあさんに伝えようか
どうか迷ったが伝えなかった。
・・・というより伝える事ができなかった。

『あっ。。ちょっと喧嘩してしまって。。』

『そうやったん。。
 まぁ、たまには喧嘩もするわな。 。
 仲直りしやなあかんで。。』

『わかっとる。。
 おばさん、仏壇に拝んでいい。。』

俺は仏壇に手をあわせた。

『もう。香織が死んで一年か・・・』
おばあさんは静かにつぶやき手をあわせた。

俺は香織さんにゆりの今の気持ちを伝えた。
ただわかってほしかった。
おばあさんは気づかなかったが
知らず知らずに涙が流れていた。


あれから1週間が経過した。

ゆりに何度も連絡を取ったが
会うことはできず戸惑っていた。

おばさんの家にもあれから行っていない。

俺は久しぶりに
おばあさんの家にバスで向かった。


1週間前に話し合った公園では
楽しそうに子供たちの声が聞こえている。



おばあさんの家の前に立った俺は呆然とした。



おばあさんの家は取り壊されていた。



激しいショベルカーの音が響き渡る家の前には
おばあさんが静かに立っていた。

『おばさん!』

『あぁ・・・健介君か。。
 昨日から壊してるんや。
 やっぱり寂しいな。。。
 ホームへ位牌を持っていくからええけどな。。
 この家にはいろんな思い出があるしな。。
 たくさんの思い出があるわ。。』

おばあさんは小さな声で呟いた。
横には老人ホームの介護士の男性が立っていた。

おばあさんは5日前に老人ホームに入所し
今日、家の取り壊しを見に来た様子だ。

家は激しく壊された。

呆然とみつめるおばあさん。

『さぁ、秋野さん、行こか!』
男性が声を掛けた。

おばあさんは名残惜しそうな
懐かしそうな寂しい目をして
壊れた家を見ている。

俺は何も言えなかった。

おばあさんはゆっくりと車に向かった。
車に乗ろうとしたおばあさんが
微笑んで俺に話した。

『もうお別れなんやなぁ。。。
 楽しかった。。
 楽しかったなぁ~
 あなたたちと一緒に過ごした時間
 最高やったわ。。』

『おばさん、お別れって!!
 また遊びに行くで
 こんな寂しい顔しやんといてよ。。
 絶対に会いに行くから待っとってな!! 』

『いつでもいい。。
 ゆりちゃんと来てな!!
 待ってるわな。。』
 
ゆりが、今、この場所に
いないことを悲しく思った。

今のゆりのためにも
おばあさんと会わせたいと思った。   

窓から顔を出し手を振るおばあさん。
いつもと同じ温かい笑顔だった。


車はどんどん小さくなっていった。


頭の中はおばあさんとゆりで過ごした
楽しい日々がぐるぐると回転していた。

俺は車が見えなくなるまで見送った。


帰ろうとした時、離れた所でゆりが立っていた。

ゆりも俺と同じように心の中で
おばあさんに手を振っていた。

『ゆり・・・!ゆりーーーー!』

俺は大声で叫びながらゆりの方へ走った。

ゆりは背を向け何も言わず
全力で走って行った。

『ゆりーーーー!ゆりーーーー!』


ゆりは家の中に入って行った。

『ゆり・・・ゆり・・・』

俺はドア越しにゆりに話し掛けた。

『健ちゃん、帰って!
 健ちゃんに会いたくないッ!
 健ちゃんの顔見るとつらい・・・。
 前にも言った!! 
 帰って・・帰って・・・帰ってよ・・・!』

ドアの向こうでゆりは泣いている。

『なぁ・・・。ゆり・・・・。
 あのメモ帳なら気にするな!!
 香織さんの勘違いなんや。。』

『もう・・・いやや。。。
 健ちゃんといると
 香織やおじさんのこと思い出す・・・』


『だから、健ちゃんとは別れたい・・・・』

ゆりは決心したように静かに言った。


俺は寂しそうなゆりの声を聞きながら
そっと話し掛けた。

『ゆり・・・お前の気持ちはよくわかった。。
 でも、今、別れるという言葉はやめよう・・・
 今は互いに会うのはやめよう・・・
      
 ゆりが苦しいのなら・・・
 会うのはやめるわ・・・・』

俺は何を話しているのかわからず
頭の中が動揺していた。

ドアの向こうで
ゆりの静かな泣き声が聞こえていた。


『じゃあ、俺、行くでなッ・・・』
俺は小さな声で言った。


俺はポケットから自転車の合鍵を取り出し
玄関にそっと置き、駅へ歩いて行った。


ピンク色のいわし雲が一面に浮かび
綺麗な夕焼け空だった。。