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heartdiary1224’s blog

『心の中の大切な日記』 誰かの勇気につながってほしい。。そう思って書かせていただきました。

第9章 伝えたい気持ち

あれから1か月が経過した。
二人は全く会っていない。

明日はおばあさんの誕生日だ。

俺はゆりとの約束をずっと気にしていた。

本当なら明日、おばあさんの家で
一緒に演奏を披露する予定だった。

桜の木の下で微笑んでいた
おばあさんとゆり。。

海で練習した日々。。

病院の屋上で聴いたゆりのフルート。。

大切にしていたフルート・・・

「俺たちは明日を楽しみにしていた・・・」
「でも・・・もう無理・・・・」
「ゆりの思いだけでも軽くなってほしい・・・」

いろんな思いが頭の中を
ぐるぐると回転して眠れなかった。

そして、俺は決心した。

明日の朝、早起きして老人ホームに
行こう!!
老人ホームの外からでもいい・・
おばあさんに『おめでとう』を言おう!!

会えなくてもいい・・・
おばあさんの近くから
ただ、あの日の二人の思い・・
『おめでとう』を伝えたかった。

次の朝、ギターケースを片手に
老人ホームにバスで向かった。 

ゆりとよく通った
海岸沿いに老人ホームがある。

バスの中は客が三人しか
乗っていないため静かだ。
窓の外はギラギラと太陽に照らされて
海が綺麗に輝いている。

隣にいないゆりを
思い出し、いろんな気持ちになった。

30分後にバスが到着した。

バス停から老人ホームまで歩いて
10分位の距離だ。

バスを降りると海岸から
静かな波音が心地よく聴こえてきた。

しばらく歩いているとフルートの音が
海岸から聴こえてきた。

耳を澄ましてよく聴くと
二人がいつも練習していた曲だった。

「ゆりだ!」
「きっと、ゆりだ!間違いないッ!!!」

俺はフルートの音色の流れる
砂浜の方へ無我夢中で駆け出した。 

必死に走った。

ゆりとの楽しい思い出が頭の中で
いっぱいいっぱい駆け巡っていた。

砂浜にはゆりがいた。

優しいような哀しいような
そんな横顔でフルートを演奏している。

ゆりッ。。
大声で声を掛けたい!
そんな気持ちもある。

でも・・
ゆりの演奏を静かに聴いていたい
もうひとりの自分もいる。

ゆりの演奏を
波音と共に静かに聴いた。

曲と共に出会った頃からの
ひとつひとつの思い出が
頭の中で駆け巡っていた。

なんだか懐かしいような
ニコッとするような・・
そんな癒された気持ちだ。

そしてゆりは演奏を終えた。

俺は思いっきり拍手した。

驚いて振り向くゆり。

『・・・健ちゃん・・・・・』

『俺もここに来たかったんや!!』

『ここからおばさんに届くかなぁ。。。』

『ゆり!行こッ!!』

俺はゆりの手を握り
老人ホームの近くまで走った。

『ここから、おばさんにおめでとう!!
 おめでとう!!を伝えよに。。』

俺は老人ホームの下から
2階の窓にを見た。

同年代ぐらい介護士の女性が
窓際に見えたから大きな声を掛けた。

『秋野さん、みえますかッ!』

『ああッ。ちょっと待っててね。
 今日は秋野さんの誕生日会なんですよ。。』

しばらくして窓越しにおばあさんが現れた。

二人はおばあさんの姿を見ると同時に
あの日、砂浜で練習した『涙晴の空』を
自然に演奏し始めた。

ゆりの目から
静かな涙が流れていた。

俺はこの日のために
何度も何度もゆりに教えて
もらったノートを見て練習していた。

窓越しにはおばあさんだけではなく
たくさんの老人さんたちが集まってきた。

俺の隣には静かに演奏するゆりがいて
上には優しい顔でおばあさんが微笑んでいる。

なんだか・・・とても温かい時間に感じた。

演奏はゆっくり終わった。

『おばさん、誕生日おめでとう!!!』

ゆりは大きな声で窓に向かって叫んだ。

俺も負けずと大きな声で『おめでとう!!』
と叫んだ。

『二人は私たちの孫なんよ。。
 春には桜、見に行ったり・・・』

おばあさんの小さな声が聞こえた。

おばあさんはホームの仲間に
にこやかな顔で説明していた。

『お~い~孫ッ!!ええぞ!
 もっかい曲聴かせてくれや!たのむわ~~』

元気そうなおじいさんが
窓越しに二人に声を掛けた。

二人は目と目を合わせてうなずき
もういちど曲を演奏した。

大きな大きな拍手が二人を包んだ。

二階の窓は老人さんの
笑顔でいっぱいだった。

おばあさんも窓越しから
おもいっきり拍手をしている。

そして、二人は演奏を終えた。

『ありがとうな!!
 最高の誕生日やわ!!また来てよ!!』

窓越しでおもいっきり手を振る老人さんたちに
二人も後ろ向きに歩き力いっぱい手を振り
ホームから離れた。

しばらくしてさっきの介護士の女性が
二人の元に走って来た。

『あのぅ、ご親戚のかたですか。。』

『いえっ、近所の者です。』

『そうですか。』

『そうですか。すいません。
 お騒がせいたしました。。』

『いいえっ、いいんですよ。。
 そんな意味で言ったんではなくて・・
 あんなに楽しそうな秋野さん、初めてみました。
 ぜひ、クリスマス会に来ていただけませんか。
 先ほどの曲を披露していただけませんか。
 みんな、絶対に喜ぶと思いますから。。』

『ええっ?!』

『二人で相談して明日
 電話させていただきます・・・』

二人は戸惑った。

介護士の女性はパンフレットを
渡し老人ホームに戻った。

バス停に向かいながら
なんだか気まずい雰囲気で
無言になり沈黙になる二人。

そしてゆりが静かに話し掛けた。

『おばさん、嬉しそうやった。。。
 よかった。。健ちゃんありがとう・・・・』

ゆりは静かにつぶやいた。

『俺も嬉しかった!!!』

『健ちゃん。手紙ありがとう。。』

『あっ・・牧野さんに頼んだんや。。
 読んでくれてたんや!!』

『うん・・。。
 健ちゃんに会うのが怖かった・・・・
 でも、健ちゃんのいうように今が大事。。
 今日の老人さんたちの笑顔を見て、そう思った。
 恐がって家にいたらあんな笑顔見れなかった。 。
 健ちゃん、ありがとう。。』

ゆりはにっこり笑った。

『ゆり、クリスマス会に行ってみよう。。』
 
『うん。。健ちゃん、ギターうまくなったなぁ。。』

『そうか!待ってました!!その言葉!!
 結構練習したんや。。
 またゆりと演奏ができて嬉しかったわ~ 』

『ゆりッ、クリスマス会行こにッ!!』

『うん!』


バスが停車した。


海はあの日、練習していた時と
同じような夕陽に染まり
キラキラと輝いていた。



あれから数週間が経過した。


おばあさんの家の空き地で練習する二人がいる。
ゆりはあの日以来、学校に行き始めた。
二人は学校帰りに公園で待ち合わせをして
いつも練習をしている。
 
                            
『健ちゃん、ここの弦を軽く押さえて・・・』

二人はクリスマス会が待ち遠しく
楽しそうな笑顔で会話している。

時間がタイムスリップしたような・・・
そんな癒された時間がこの場所に戻った。 

『健ちゃん、クリスマスやでさぁ。。
 サンタさんの衣装を着て演奏しやへん!』

『ええッ、サンタの衣装か?』

『うん!どう思う。。』

『ちょっと恥ずかしいけど・・・
 ええなッ!
 老人さんも喜ぶかなぁ。。
 白い髭、俺が付けてなッ!』
         
『ジャーーーン!    
 雑貨店で売っとったで買ったんや!!』 

ゆりは横に置いてあった紙袋から
男性用と女性用のサンタの衣装を取り出した。

『うわッ!びっくりした!!
 買ってたんや!びっくりするな~
 よしッ。張り切って練習するでッ!!!』 

『健ちゃん。。
 老人さんたち
 みんな笑顔でいっぱいになるとええなぁ。。』

『そうやなッ。
 俺たちが気持ちを込めて演奏すれば・・
 きっと伝わる。そう信じよに。。』

『健ちゃん、これ自転車の鍵・・』

あの日、玄関に置いて帰った自転車の鍵だった。

『ありがとう。。大切に持っとくわ。。』

二人の上には綺麗な夕焼け空が広がっていた。


あれから1週間が経過した。

二人は放課後、駅で待ち合わせをして
水族館へ向かった。

特急電車や乗換えで
2時間以上かかり今までで一番の遠出だ。

電車の中では、クリスマス会で
どう喜ばせようかいろいろと話していた。
なんだか二人ともわくわくして
時間があっという間に過ぎた。

午後6時を過ぎやっと水族館に到着した。
制服姿なのは俺たちだけだった。

タツノオトシゴハリセンボン、サメ、ウツボ
綺麗なさんご礁・・・・
いろんな海の生き物に夢中になった。

『健ちゃん、癒されるなぁ。。』

『癒されるなぁ。。』

静かな空間とキラキラと輝く魚の世界に
心地よい温かさを感じ魚が泳ぐように
二人の世界もゆったり流れていた。

そして、ゆりが急に走りだした。

『うわぁ、綺麗・・・』

銀色の光を輝かせ、反射しながら
数千匹のイワシが大きく円を描いてはうねり
神秘的な一つの生き物のように動いていた。

『思い出すなッ』『思い出すなッ』
二人は同時に話した。

『健ちゃんのロケット!!あのキラキラ感!!!』

『俺も今、思い出した!!』

二人は見つめ合い、恥ずかしそうにニコッと笑った。


『綺麗。。。』

ゆりはとても嬉しそうな顔をして
キラキラと輝くいわしの群れを見上げていた。

俺の知らない海の世界で
今も魚たちがこんな風に
生命を営んでいるのかと思うと
本当にすごいことだと思った。

そして、ゆりの見上げる
優しい目に温かさを感じた。


二人は時間を忘れ、ただただ感動し
終電車の時間をつい忘れていた。

地下鉄に乗り、特急電車のホームへ急いだが
終電車に間に合い
電車はまだ到着していなかった。

ゆりは疲れたのか息切れが激しく咳き込んでいた。

夜9時を過ぎ少し肌寒く
遠く離れたベンチに二人は座った。

『健ちゃん、今日は楽しかったわ。。』

『すごい癒されたー!!』

『健ちゃん、私、一度・・・
 『涙晴の空』 歌ってええかなぁ。。
 いつも演奏ばっかりやから。。』

『聴かせてくれるん!!』

『うん』

ゆりは俺の座るベンチの前に立った。

俺は大きな拍手をした。

元気いっぱいの笑顔で歌うゆり。
それに合わせ手拍子する俺。

歌が終わり大きな拍手をすると同時に
特急電車が到着した。

帰りの電車の中でも
クリスマス会のことをいろいろと話し
あっという間に2時間が経過し
いつものホームに到着した。

夜11時も過ぎたため、俺はゆりを家まで送った。

ゆりの自転車に久しぶりに乗り
二人乗りをした。

『健ちゃん、久しぶりの二人乗りやなぁ。。』

『そうやなぁ。。』

『あのなッ、駅前のあの音楽ショップの
 入口においてあるあの曲いいよね~』

『あの曲やろッ!ゆりもそう思う!』

ゆりとの何気ない会話に
俺は話しながらとても嬉しく感じた。

ゆりの家の前に到着した。
家は真っ暗でまだお父さんも帰宅していない様子だ。

『健ちゃん、ありがとう。。
 明日、また練習するから
 家まで自転車、乗ってってええよ。。』

『そうか。。もう終電やったから
 借りてくわ!!ゆり、また明日なッ!!』

俺はなんだかとても嬉しく
口笛を吹きながら家まで帰った。

風は冷たいが夜空の星はキラキラと輝いていた。


そして数週間が経過した。


今日はクリスマス会の日だ。

二人はバスに乗り楽しそうに話している。

海は太陽に照らされキラキラと輝き
二人にエールを贈っているようだ。

『健ちゃん、緊張するなぁ。。』

『なんだっ、ゆり。。顔が青白いで!!
 緊張しなくてええ。。
 いっぱい練習したんや。
 思いっきり披露しよッ!!』

本当は俺も緊張している。
でも・・強がって
ゆりに自信を持ってもらいたかった。

二人は2日前にいろいろと考えた。

老人さんたちに歌詞を読んでもらう為に
手作りで歌詞カードを書いた。

電話で介護士の方に
老人さんひとりひとりの名前を教えてもらい
歌詞カードにはメッセージも書き入れた。

色鉛筆で丁寧に1枚1枚塗り
愛情のこもった手作り歌詞カードが出来上がった。

そして演奏だけではなく演奏が終了したら
みんなにあめを配ろうとも考えていた。 

そしてバスは停車した。

『よしッ!やるだけのことはやった!!
 出発ーーーー!』

張り切る俺。

『よーーーし!いざ出発ーーーー!!!』

負けじと張り切るゆり。

バスを降りると波音が心地よく聞こえている。

そして二人は老人ホームに到着した。

介助員さんに案内され食堂に行く二人。

食堂にはクリスマス会と大きな看板があり
「ようこそ高校生サンタクロース」と書かれていた。


二人はドキドキしていた。


老人さんたちの部屋に歌詞カードを配るため
更衣室に行きサンタクロースの衣装に着替えた。

『健ちゃん、どうこの衣装!!』

『かわいいサンタさんやなぁー』

『俺はどう!』

『よく似合ってるわ!髭がぴったりやぁ!!』
 健ちゃん、最初に歌詞カード
 おばさんに渡しに行こにッ!』

『そうやなッ!』

おばあさんの部屋に向かう二人。

部屋は4人部屋だ。

窓際におばあさんがいて外の景色を眺めている。

『おばさんッ!健介です!』

『・・・・』

おばあさんの目は寝起きのようにうつろだ。

『おばさんッ。。健介!』

『・・・・』

『おばさん。。』

『・・・・あんた誰や。。知らん・・・』

俺は髭をはずして
おばあさんににっこり笑った。

『なにッ。あんたら。知らん!誰や・・・』

『ええッ!おば・・さん・・・』

『おばさん、健ちゃんやに・・忘れたん!!』

『知らんなぁ・・・』

『じゃあ、私は・・・
 ゆりやにッ・・・』

『ゆりッ・・・ 
 あんたはよく覚えとるッ!!』

『あぁ、よかった!!だったら・・・
 なんで健ちゃんを・・・』
 
『近所の人たちに聞いてるわ!!
 あんたの名前は!!
 あんたのせいで
 わしはひとりぼっちや!!!!
 息子を返してよッ!!息子を返してよッ!!』

おばあさんは真っ赤な顔でパニックを
起こしたように大声で泣き叫び
ゆりが渡した歌詞カードをしわくしゃに破いた。

床には破れた手作り歌詞カードが
バラバラに散らばった。

ゆりは無言になり震え
その場から思い切り走っていった。

俺は追いかけ
必死でゆりを探した。

そしてゆりを見つけた。

ホームの外の塀の所に
しゃがみ込み泣いていた。

『健・・ちゃ・・ん。
 もう・・もうあかん・・・・・・
 私は大切なおばさんまで・・・・もうあかん・・』

『ゆりッ!ゆりッ!』

『健ちゃん、みんな・・
 待っ・・てるから行ってきて・・・・』  

涙声で伝えるゆり。

介護士の女性の方が
二人を探して俺たちの前に来た。

『秋野さん、以前から
 認知症が進行していて・・・
 近所の方も訪問にみえるんですが・・・
 先日、近所の方たちがみえてから
 興奮気味でして・・
 申し訳ございません。
 何か気に障る事、言われましたか・・』

俺は何も答えることができなかった。 

『申し訳ございません。
 こちらビリビリになってしまって・・
 秋野さん、最近はイライラしたり攻撃的なんで・・
 本当に申し訳ございません。
 近所の方々にも今日来ていただくよう
 お伝えしたのですが来ないとのことで・・
 彼女のこともよく知っていると
 おっしゃっていました。』

そういいながら細かくなった
歌詞カードを俺に渡した。

手のひらにはビリビリになった歌詞カード
が小さな山のように積もった。

ゆりと二人でウキウキしながら
作った歌詞カードが手の中で
ギュッと握り締めていた。

『食堂にいますんで・・・
 落ち着いたら来てください。。
 無理だったら私が歌いますので。。
 無理はしないでください。
 私が園長に頼んだせいで‥』

二人の雰囲気を察してかそう言って
この場からいなくなった。

『ゆりッ、ゆりッ』

しゃがみ込み頭を抱えているゆり。

『もうあかん!もうあかん!・・・』

『何があかんのや!』

『私はおばさんの心まで傷つけとった・・
 最低の・・最低の・・女・・・
 私なんか、死んだほうが
 消えたほうがいい!!!
 死んだほうが・・・
 健ちゃんもそう思っとるんやろッ!!』


大きな声で涙を流しながら
俺の服を掴むゆり。

『健ちゃんもそう思っとるんやろッ!!
 健ちゃんもそう思っとるんやろッ!!』

『ゆりッ!!!何を言っとんのやッ!!!』

俺は大声を荒げた。

『ゆり・・・
 お前が苦しい気持ちの時は
 俺もめっちゃくちゃ苦しい!!
 お前が嬉しい顔をしている時は
 俺もめっちゃくちゃ嬉しい!!
 ずっとずっと一緒に考えてきたやないか。。
 おばさんは認知症になったんや。
 こんな時やからこそ二人でおばさんを勇気づける!
 俺らはおばさんを喜ばせる為に
 練習してきたんやろ。。』

俺はゆりに大きな声を出してしまった。

黙り込み、しゃがみ込むゆり。
   
『おばさんがあんな言葉を本心で言ったと思うか。。
 言ったのはきっと寂しかったからや。。。
 お前が今までずっとずっとずっと
 おばさんの悲しみを埋めてきたんや。
 晩御飯を作っておばさんを心から笑わせて・・・
 誕生日に思いっきりおめでとうを言って・・・
 お前は誰よりおばさんを勇気づけてきた。。。』
 
『きっとそうや。。。
 お前はおばさんの勇気や喜びや
 生きがいやったんや。。
 お前と離れたおばさんは寂しかった。。
 お前にはそんな力があった。。
 おばさんの言葉に振り回されたらあかん。
 お前はお前・・・
 俺はお前の勇気や努力を知っとる。
 お前はお前のままなんやッ。
 何ひとつ変わってないでッ!!!』

俺は何を言っているかも
わからず必死に伝えていた。

静かに話す俺の顔をゆりはじっとみつめていた。


『お前のことを大切に思っていた
 おばさんの心をそっと
 あたためてあげよに。。
 今は二人で闘う勇気を持とう。。
 食堂に行って待っている
 老人さんたちを勇気づけよう。。』

俺は静かに伝えた。

今日、演奏をしないまま帰ったら
ゆりが余計苦しむと思ったからだ。



しばらくの間、ずっと沈黙が続いた。



『健ちゃん、ごめんな。。ありがとう。。
 私たちおばさんを喜ばせる為に
 ここへ来たんやな。
 無理かもしれへんけど・・
 おばさんの心が昔に戻るように・・・
 私たちと笑顔でいた頃を思い出すように・・・
 私たちがそこから逃げたらあかんよね。。』

ゆりはそっと立ち上がった。

『行こう。。健ちゃん!』

俺は黙ってうなずいた。

二人は見つめあい
静かに微笑みホームに戻った。

すでにクリスマス会が始まっていて
2階からは楽しそうな声が響き渡る。

介護士の女性に10分後に
食堂で演奏を開始すると伝えた。

俺はどうしてもこの10分で
やりたいことがあった。

さっき手のひらで握っていた
おばあさんの歌詞カードを
元の状態にしたかった。

事務所の人にセロテープを借りて
更衣室に戻り、細かく破れた
歌詞カードを張り合わせた。

ゆりは黙って俺の後姿を見ていた。

『健ちゃん、私がつなげるわ。。』

ゆりはセロテープを細かく切り
ひとつひとつを繫ぎ合わせた。

ゆりの目からは涙が溢れていた。

俺は涙をこらえ
その姿をじっとみていた。

ゆりの胸元には
あの日、プレゼントした
指輪が光っていた。

あの日、砂浜で
楽しげにはしゃいだ二人。。

今、目の前にひとつの文字を
繋ぎ合わせるゆりがいる。


俺はゆりを後ろから抱きしめた。


元通りとはいえないが
ひとつの歌詞カードに戻った。

『健ちゃん、これ。。。』

『戻ったな。。。』


ゆりは涙を拭いて
にっこり微笑んだ。

俺もとても嬉しかった。


そして、サンタクロースの衣装を着た
二人は食堂に入った。

老人さんたちの拍手が
食堂の中に響きわたっている。

俺はゆりの手を握り
思いっきりスキップした。

思いつきのアドリブだ。

ゆりも戸惑ったが
俺に合わせてスキップした。

『どうもーーーー。
 今日、皆様と一緒に過ごさせていただ
 サンタクロースです~~』


『・・・・』

少し戸惑うゆり。

『・・・はーいい!サンタガールで~す~』

ゆりは昨日の打ち合わせどおり
精一杯の明るい声を出した。


『今日は皆様に私たちの音楽を
 聴いていただきたくてここに来ました。
 歌詞カードがありますのでみてください。。』

『前の若者やなっ!!がんばれよっ!!』

二人は老人さんたちに
歌詞カードをゆっくり配った。

俺は貼り付けた歌詞カードを
おばあさんに渡そうとした。

『健ちゃん・・・私に渡させて・・』

ゆりは歌詞カードのシワを伸ばし
おばあさんに手渡した。

おばあさんはさっきのことを忘れたかのように
ボーッと天井を眺めている。

『おばさん、私たちの夢、演奏するでねッ。。
 おばさん、聴いててね。。』 

優しく耳元で話し掛けるゆり。

おばあさんはボーッと天井を眺めている。

『おばさん、聴いててね。。』 

俺もゆりとおばさんを見つめながら
聴いててなっと心の中でつぶやいた。

二人は手をつなぎスキップをしながら
小さな舞台へと向かった。

小さな舞台にそっと座る二人。

『聴いてください。。涙晴の空!!』

老人さんたちの大きな声援と拍手に包まれた。

『よし・・ゆり。。やるぞッ。。』

『うん・・』

静まった食堂に
ギターの音が響きわたる。

ギターのバックに
フルートがゆっくりと響く。

そして俺が歌い始めた。

俺は演奏しながら老人さんたちの顔を見た。

みんな優しい顔をして演奏を聴いている。


そしておばあさんの姿も探した。


さっきまで天井を見上げていたおばあさんも
二人をじっと見ている。
そして小さな手拍子をしていた。


とても嬉しかった。


初めて病院で会った日。
おばあさんと誕生日会をした日。
楽しそうにゆりと料理を作っていた姿。
花見ではしゃいでいた日。
だるまさんがころんだをした日。
そして・・家が壊された時の悲しい目・・・

いろんなおばあさんの表情が
頭の中を駆け巡った。

こらえていた涙が溢れ出てきた。

涙声で歌う俺。

横を見るとゆりの目からも
涙が溢れていた。