heartdiary1224’s blog

『心の中の大切な日記』 誰かの勇気につながってほしい。。そう思って書かせていただきました。

第1章 初恋

ある日、電車通学の俺は
電車に乗り込むために
必死に階段を駆け上がり
ぎりぎり電車に乗り込むことができた。

ホッと、一息ついて周りを見ると
席はいっぱい空いていた。

しかし席に座らずドアの側で立つ
髪の長い女子高生が近くにいた。

それが彼女とのはじめての出会いだった。

自分の学校から5駅離れた場所に
ある高校の制服だった。

悲しそうな顔をして外の景色を眺める彼女。
よく見ると彼女は涙を流していた。

電車に乗り込んでから15分。
次の駅は俺の降りる駅。
音楽ショップに寄るために時折
この駅で降りている。

彼女の涙を気にしながら
席を立ちドア付近に近づいた。
ドアが開くと彼女も同じ駅で降りた。

彼女は涙を拭き俺の前を通り過ぎた。

足早に歩く彼女。

階段を降りている時、彼女は
足を滑らせて下まで転倒した。

近くにいた駅員が彼女に駆け寄り
大きな声をあげた。
駅員と俺以外、周りには誰もいない。

スーツを着た男性が近くにいたが
関わりたくない様子で避けて走って行った。

駅員は彼女の側にいてくれるように頼み
駅長室へ電話をかけに行った。

彼女の意識は全くない。

彼女の顔を見て
さっきの涙が気になっていた。

しばらくして駅員が戻り、救急車を待った。

救急車のサイレン音が近づき
駅に停車した様子だ。

救急救命士が来て彼女に呼びかけたりしている。
俺と駅員は救急車に乗り込んだ。

鳴り響くサイレン音。

俺は救急車の中で救急救命士
彼女が会談から落ちた状況等を説明した。

救急救命士は彼女の鞄の開け
生徒手帳を見つけた。

生徒手帳には秋野香織と名前が書いてあり
家族に連絡をするよう無線にて伝えている。

彼女の意識は戻らない。

救急車が病院に到着した。

急ぐ救急救命士
駅員と俺は集中治療室の前で
待つように指示された。

しばらくすると彼女の祖母が
看護師に連れられ集中治療室の前に来た。

オロオロと動揺している様子だ。

しばらく無言の時間が続いた。

『おばさん、大丈夫だよ!!』
駅員がそっと微笑んだ。

『大丈夫。。』
俺も小声で言った。

ただ、意識が戻ることだけを願うしかなかった。

そして、また沈黙が続く。。

15分後、医師と看護師が集中治療室から出てきた。

『孫はどうですか』
おばあさんは小さな声で尋ねた。

医師は俺たちの前に立ち彼女の状態を説明した。

「彼女は頭を強く打っており現在のところ
 浅い呼吸で意識はもうろうとしている状態です」
 
駅員と俺は唖然としていた。

処置に時間がかかるため
ここで待っているよう
指示された。

俺は泣き崩れ床に座り込んだ
おばあさんの背中をさすり
椅子にそっと座らせた。

しかし何の言葉も
掛けることができなかった。

午後7時を過ぎ駅員は状況報告の為
職場に戻った。

俺はそのままおばあさんのそばにいた。

しばらくしておばあさんが話し掛けた。

『私は孫と二人で生活している・・』

彼女は片親でお父さんがいたが
彼女が小学3年生の時
川で溺れた彼女を助けるために亡くなられ
それ以来、二人で生活している様子だ。

おばあさんは悲しそうな懐かしそうな顔で
小さい頃からの彼女の様子を話してくれた。

彼女は小さい頃から吹奏楽に興味があり
中学から吹奏楽部でトランペットを
演奏している様子だ。

俺は黙って5分ぐらい
おばあさんの話を聞いていた。

二人は彼女の状態がよくなることを
ただひたすらに祈るしかなかった。

そして、再び沈黙の時間が続いた。

その後、慌てた様子の看護師に
即、集中治療室に来るよう指示された。

おばあさんは心細いからと
俺に一緒に来てほしいと頼んだ。

俺は無言でうなずいた。

看護師に集中治療室に誘導され入った。

集中治療室に入ると看護師の
誘導でさらに狭い部屋に入った。

そこに入ると医師が
重い表情をして立っていた。

二人は医師の前に立った。

おばあさんは医師に彼女の状態を
聞きかけた。

医師は重い表情で伝えた。

「息をひきとられました。
 午後7時15分 ご臨終です。」

『嘘でしょ。先生!』

おばあさんの大きな声が部屋に響いた。

俺はただうつむいた。

医師に誘導され
彼女のベッドに歩いて行った。

彼女は酸素マスクをつけ全く動かず
静かに目を閉じている。

『何で、何でや、香織!香織!! 』
大声で泣き叫ぶおばあさん。

俺は数時間前に会った見ず知らずの
彼女の死に足が震えた。

看護師は彼女の側で落ち込む
おばあさんの背中を何度も何度もさすった。

時間が経過しおばあさんは
少し落ち着いた。

看護師がおばあさんに身内の人に
連絡をするよう頼んだが
誰一人親戚もいない様子だ。

看護師が葬儀の手配等を
おばあさんにいろいろと説明していた。

しばらくして葬儀関係の人が到着した。

俺は夜遅くなった為、家に電話した。
俺の家庭環境は母と二人暮し。
父は3歳の時に失踪している。
電話に母が出た。

『今日・・・だから今日は
 おばあさんの家で泊まる。
 明日はそのまま学校へ行くから・・・』

小さい頃から一人ぼっちの寂しさを知っている。
今のおばあさんの気持ちは少しはわかる。

母は電話の向こうでうなずいた。

電話を切り、おばあさんの所へ行くと
葬儀関係の人がうつむいたおばあさんに
いろいろと説明している。

葬儀関係の人の車に乗り
おばあさんの家へと向かった。

おばあさんはずっとうつむき
悲しそうな表情をしている。

窓越しに何気なく空を見た。
綺麗に光る幾つもの星空。
そして電車に乗っていた
彼女の姿を思い出していた。

車の中はずっと沈黙が続いた。

おばあさんの家に到着した。
家は木造建ての古い家だ。
表札には秋野と書かれている。

葬儀関係の人たちが彼女を抱きかかえ
布団を敷き彼女を仏壇の前に寝かせ
おばあさんに明日のお通夜の
段取りの説明をしている。

俺は今の状況をまだ受け入れられず
仏間の隅に立ってボーッとしていた。

しばらくして葬儀関係の人たちは帰っていった。

『今日はありがとう。。』

おばあさんは俺に座るよう
優しく声をかけてくれた。

おばあさんの顔を見ると
涙が頬をつたっている。

おばあさんは彼女の顔を覆っている白い布を
ずらし彼女の顔をみつめた。

『ごめんな。。香織。お前には
 苦労ばかりかけたな。 。
 いつもこんな私の世話してくれて・・』

一言一言・・
彼女への感謝の言葉をかけていた。

『ごめんな幹夫。。
 香織を死なせてしまった。ごめんな・・』

仏壇のお父さんに話し掛け
涙ぐみずっと手をあわせている。

『お疲れですから横になってください。
 僕が起きていますから・・』

『いや、今日は眠れやんわ。。』

二人は隣のこたつの部屋に座った。

おばあさんは彼女の幼い頃の写真を
押入れから出し懐かしそうな表情で
彼女の思い出話をいろいろと教えてくれた。

俺に彼女との思い出をゆっくり伝えることで
今の寂しさを紛らわせようと
しているように感じた。

そして、一睡もせず朝を迎えた。

おばあさんは朝食を作ってくれた。
目玉焼きと味噌汁とご飯だ。
そして仏壇にご飯を供え
彼女の前にも同じ朝食を用意した。

しかし、俺もおばあさんも
全く食事を食べられなかった。

午前8時におばあさんは電話で近所の人と
彼女の学校へ彼女の死を伝えた。

電話を切ると同時に
玄関の扉を激しくたたく音がした。

俺が玄関の鍵を開けるとそこには
息を切らし涙を流している
制服を着た同級生ぐらいの
女の子が立っていた。

彼女は何も言わず玄関を駆け上がって行った。

仏間から『香織ーー香織!!!』
と何度も泣き叫ぶ声が聞こえた。

静かにおばあさんは話し掛けた。

『ゆりちゃん・・・
 今まで仲良くしてくれてありがとう。。』
『今まで香織を助けてくれてありがとうな。。』

彼女はおばあさんの目をそっとみつめた。

『私は香織を苦しませとった・・・』

そう言いながら彼女はずっと泣いている。

おばあさんと俺は彼女をそっとして居間に戻った。
おばあさんは今までの
香織さんと彼女の関係を話した。

彼女の名前は立花ゆり。

『ゆりちゃんは保育園の頃から香織と仲良しで
 いつも香織の味方やった。。』

『香織が小学校の時、いじめられとって
 相手の男の子を殴ったこともあった。。』

『いつも香織、香織と仲良くしてくれたんや。。』
おばあさんの話をしばらく聞いていると
居間の戸が開き彼女は二人の前に座った。

まだ落ち着きを取り戻していない様子だ。

おばあさんはお茶を入れると
言いいながら台所へ行った。

俺と彼女は二人きりになり
しばらくの間、沈黙が続く。     

『あの、はじめまして木下健介といいます』
俺は重々しい口調で緊張しながら自己紹介をした。
『私、私は立花ゆりです。』
 香織のいとこですか。。』

彼女も涙を拭き声を震わせながら俺に話した。

『い、いや昨日・・
 駅で彼女の後ろを歩いていて・・』
彼女に昨日の出来事を説明した。

『おばさんの側にいてくれたん。。』

彼女の言葉にうなずくと・・・

『ありがとう。。』
彼女は静かに微笑んだ。

優しそうな目をしている。
俺もなんだかほっとして微笑んだ。

おばあさんがお茶をお盆にのせて入ってきた。

三人がお茶を飲もうとした時
玄関の戸が開く音がした。

それと同時に人の声がざわざわと聞こえた。

『おばさん、えらいことになったなー』
『気、落とさんと・・』

近所のおばさん、おじさん・・
いろんな人がたくさん入ってきた。
おばあさんは再び、涙ぐみ話し込んでいた。

俺はそろそろ帰ろうと思った。

『あのぅ。また、来ます。』

『ありがとう。。助かったわ。』
おばあさんは涙を流しながら微笑んでくれた。

鞄に手を取り周りを見渡すと
彼女はどこにもいなかった。
玄関に行くと彼女の靴はもうなかった。

外に出て空を眺めた。
青空には雲が流れていてさわやかな日だった。 

高校へ向かう為にバスに乗り駅へと向かった。
時間はすでに午前9時を過ぎていた。
駅に着くと昨日の駅員が改札口にいた。

『おはようございます』

『昨日、どうやった。
 駅にもあれから連絡がなくてな。
 安静にしているのか。。』

『いや。彼女は昨晩・・・・』

『・・・・』
駅員は無言になった。

『そうか。告別式はいつ・・・
 一緒に行こう。。』

『明日の土曜日の13時からです・・・』

二人は告別式に行く事となった。
明日、駅で待ち合わせることを
約束し俺は高校へ向かった。

いつもと変わらずにぎやかな高校。
楽しく幸せな周りにも今もどこかで
悲しみを背負っている人がいる・・・。
授業中も休み時間も
ずっとおばあさんのことが気になっていた。

次の日、俺は駅に向かった。 

駅員が車に乗って待っていた。
二人はおばあさんの家に向かった。

『あぁ、俺、牧野浩次といいます!!』

『僕は木下健介といいます』

『おばあさん、大丈夫やろか。。』

『心配ですね・・・・』

おばあさんの家への道を説明しながら進んでいる
『秋野』と書かれた案内看板があった。

家に近づくと彼女の同級生も
たくさん向かっている様子だ。

近くの公園の駐車場に車を停め家へと向かった。

家に着くと多くの学生でいっぱいだ。

しばらくするとお経が始まった。

俺はキョロキョロして
昨日ここで会った彼女を探していた。

彼女の姿はなかった。

二人はお焼香をする為、参列した。
おばあさんはひとり座り悲しげにうつむいてる。

彼女の遺影の前には
トランペットが置いてあり
お焼香をするとおばあさんと
目と目があい礼をした。

俺と牧野さんは無言のまま
駐車場へと向かった。

駐車場に着くと彼女がブランコに乗っていた。

俺は彼女に駆け寄り声をかけた。

『こんにちは。
 今日、告別式やけど出やへんの。。』

『う、うん。私はいいよ・・・』
『香織とここで・・・
 お別れしてもいいかなって思って。。』
『香織と保育園の時、よくここで遊んだんやッ。。
 想い出の場所なんや。。』

彼女は空を見上げながら静かに答えた。

この日は澄みきったきれいな青空。

俺もしばらくここにいたくなり
牧野さんに先に帰っていただきブランコに乗った。
『懐かしいなー。。ブランコ!小学生以来や!!』
『香織ともよくこのブランコに乗ったなぁ。。
 古いし昔ののまま。。』

時間が経ち、俺はバス停に向かった。
彼女はバス停まで見送ってくれた。

『今日はありがとう。 。
 なんか、なんかわからんけどほっとできた。。』
彼女は少し微笑んだ。

バスが停車し乗り込んでから
彼女に手を振り微笑んだ。

席に座ると前のバス停から乗ってきた
喪服のおばさん2人が後ろから声を掛けてきた。

『あんた!!あの子がどんなことしたか
 知ってるん。。
 あんな子と付き合うのはどうかと思うで!!
 しかも、葬儀にもでやんてなぁ。。』

俺は何も言わず、外の景色を眺めた。
内心はすごく腹が立っている。

知らない人が彼女のことを
見ず知らずの俺に批判する。
彼女の悪口のように聞こえた。
だから無視をした。

『なんや!!この子、人の話に耳傾けんと
 なんやこの子・・
 あの子と仲がええだけあるわ・・』
おばさん達は俺を罵倒した。

それでもいいと思った。
彼女の悪口を聞くくらいなら
それでもいいと思った。
俺は次のバス停で降りた。

駅までは距離があるが歩いた方がましだと思った。
「あの人達はなんで俺に彼女のことを
 あんな風に話したんやろう」

歩きながら彼女と喪服の人達の関係が気になった。

 

あれから数週間が経過した。

俺はおばあさんのことが気になっていた。

土曜日の昼、おばあさんの家に向かった。
今日も綺麗な青空だ。
駅を降り、バスに乗った。

おばあさんの家の前に着いたが
チャイムがないので何度も何度も呼んだ。

『おばさん、おばさん、秋野さん・・・』

おばあさんの家はチャイムがないので
何度も何度も呼んだ。

しかし、おばあさんは出てこない。

俺は扉を開けた。
鍵はかかっていない。

『おばさん、おばさん!!』

しばらくしておばあさんと彼女が出てきた。

『ごめん、ごめん聞こえなくて。。
 今、おばさんとお昼ごはん
 作っとったんやわ!!』

『おぅおぅ、久しぶりやなぁ。あがって。。』

『おばさん、元気やった!!』

『あぁ、ゆりちゃんが
 毎日、来てくれるから安心やわ。。』

三人は仏壇の前に座り、手をあわせた。

『おばさんの元気な顔、みれてホッとしたわ!!』
俺は立ち上がり帰ろうとした。

『お昼、食べてく?』

『食べてき。食べてき!!
 三人のほうがにぎやかやわ!!』

『じゃあ・・』
遠慮知らずの俺はちゃぶ台の前に座った。

『これはゆりちゃんが作ったんやで。。』
ほうれん草のおひたしと肉じゃがが並んでいた。

おばあさんに対する優しさや素朴さに
俺は彼女に癒された。

俺の本当の初恋だ。

『おいしいなー』
『めっちゃ、料理うまいなー』

『そうやろッ、ゆりちゃん、料理屋できるわ!』

三人の会話も弾み、楽しい時間が過ぎた。

『あぁ、面白いな!!』
『やっぱり、人数が多いとにぎやかでええな。。』
おばあさんはにこやかに話した。

『ごちそうさま!!おばさん、もう帰るわ。』

『ありがとうな。いつでも来てな。
 待っとるよ。。』

『また来て!にぎやかでええし!!』

『はい、また来ます。ごちそうさまでした!!』

二人は外まで見送りに来た。

『ありがとう!!』

しばらく歩き、振り返ると二人は
まだ手を振ってくれている。
俺の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。

バス停に着くと待ち時間が30分もあった。
バスを待たずに駅まで歩こうと思った瞬間
後ろから声が聞こえた。

振り返ると自転車に乗った彼女がいた。

『おばさんがりんごを持ってきなって!!』

『ありがとう。。』
俺はりんごを受け取った。

『バスに乗らへんの。。』

『あと、30分もあるで駅まで歩くわ』

『そうなん、じゃあ私の自転車乗ってきなよ。。』
『私が後で取りに行くから。。』

『それは悪いわ』

『じゃあ、二人乗りで駅に行こッ!!』
彼女はそういうとニコッと笑った。

そういう話になり
彼女を乗せ駅まで自転車を進めた。

俺は今まで女の子と二人乗りを
一度もしたことがない。
はっきりいってドキドキしている。

しばらく無言の二人。

『なんかクラブしとるん?』
彼女が尋ねた。

『科学部』

『ううん、そうなんや。。』

『実験とか好きなんや!!』

『小さい頃から興味があって!
 ゆりさんは・・・』

『私は吹奏楽部・・
 ぜんぜん行ってへんけどな・・・』

『ああ・・・そうなんや!
 楽器の演奏できるんやんなぁ。。』

『フルートが担当・・・
 まぁ、そこそこやけど。。』

『すごいやん。。』

二人の会話は弾んだ。

そして駅に着いた。

『今日はごちそうさん・・おいしかったで!!』

『また、おばさんのところに行ったってな・・・
 来週の土曜は無理。。』

『ええッ・・』

『おばさんの誕生日なんよ。。』

『あッ・・そうなんや!
 じゃあ、ぜひ、ぜひ、ぜひ行くわ!!』

『ほ、ほんと。。おばさん、喜ぶわ!!』

俺は土曜日におばさんの家に行くことを約束した。
電車に乗り外を眺めると田んぼ沿いに
自転車を漕ぐ彼女の姿がみえた。

空を見上げると綺麗な夕焼け空だった。 

あれから1週間が経過した。

俺は駅の近くのケーキ屋で
誕生日ケーキを買いバスで
おばあさんの家に向かった。

家に到着すると台所の方から
二人の声が聞こえてきた。

俺は台所の窓から挨拶をした。

『あれ、早かったなぁ!!』

『いらっしゃい。。』

家の中に入るとテーブルの上には
二人の手作り料理がいっぱい並べてあった。

『あっ、ケーキ買ってきてくれたん!!』

『ありがとうな。。』

三人はテーブルの前に座った。

『あぁ、おばさん!
 オレンジジュースで乾杯しよに!!』

『ゆりちゃん、ありがとうな。。』

『乾杯しよう!!』

三人はオレンジジュースで乾杯した。

『かんぱーい!!!』

『おばさん、お誕生日おめでとう!!』

おばあさんはにこやかで嬉しそうだ。

後ろを向くと仏壇の前にも
オレンジジュースや食べ物が供えてあった。

から揚げ、肉じゃが、お寿司、餃子、春巻き・・・
全部、おばあさんとゆりちゃんの手作りだ。

俺はお腹いっぱい食べた。

『ごちそうさーまでした!!』

『おいしかった?』

『うん、もちろん!!』

『あぁ。よかった。おばさん。。
 ようけ作ってよかったなぁ。。』

『そうやな。多いと思たけど
 ちょうどええくらいやったな。
 さすが二人とも食べ盛りや!』

『ジャーーーン』

彼女が台所から手作りケーキと
俺が買ったケーキを持ってきた。

『あぁ、ケーキあったんや。
 ごめん。。重なったな。』

『ええやん!ええやん!
 ケーキは別腹なんよ~』
彼女はそう言いながら
ケーキをテーブルに置いた。

『ローソクあるで火点けよっか。。』

『ええなぁ。点けよ!!』

『健介君、点けてッ』

俺はローソクに火を点け
彼女はカーテンを閉めた。

『ハッピーバースデーツーユー・・・』
俺と彼女は同じタイミングで歌い始めた。

二人の歌を聞きおばあさんは涙ぐんだ。

そしておばあさんがぽつりと言った。

『ゆりちゃん、去年は香織と
 誕生日してくれたなぁ。。
 毎年、ありがとうな!
 あの子も喜んどると思うわ。。』

『息子が死んでから私は寂しかった。。
 でも、香織やゆりちゃんが
 おったで寂しくなかったわ。。』

『でも、あれは‥おばさん・・・』

『あれは運が悪いかったんや 。。』

『でも、おばさん・・・・』

『運が悪かったんや。。。』

俺には会話の意味がわからなかった。

『健介君、この子がいてくれるで
 私は寂しないんや!!
 私のもう一人の孫みたいなもんやで・・・』

『おばさん!!もっぺん、、
 ハッピーバースデーツーユー・・・しよにッ!』
何か今までとは違った空気を感じたが
俺はとにかく明るく歌いだした。

『そうやな。。うたおぅ。うたおぅ!!』

『そうやな。うたおぅ。ありがとうな。。。』

三人はもう一度、笑顔で歌った。

『ハッピーバースデーツーユー・・・』

『おばさん、ロウソク・・』

『あっ、そうやったな。』

『フッー』
パチ!!パチ!!パチ!!パチ!!

『おめでとう!!』

『おめでとう!!』

『ありがとう。嬉しいわ。。』

おばあさんと彼女はケーキを切り皿の上にのせた。
俺は久々にケーキを食べた。

『俺、満腹で、もう、食べれやんわ。。』

『じゃあ、家に持ってく!!』

『うん』

『何人、家族なん。』

『二人。。母さんと俺。』

『あっ、そうなん。うちはオヤジと二人。
 よう似とるね。。』

『じゃあ、二人分、入れとくわッ。』
彼女はパックの中にケーキを二人分、入れた。

『おばさん、もう帰るわ。
 とっても楽しかったです。
 また、来年も呼んでください。。』

『あぁ、もちろん!
 健介君、来てくれたで余計に
 面白かったわ。ありがとうな!!』

『おばちゃん、うち、健介君送ってくわ。』

彼女はバス停まで送ってくれた。

『今日は楽しかったね。料理おいしかった?』

『あぁ、おいしかったわ!!
 ケーキもおいしかったわ』

『あのケーキなッ
 本、見ながら作ったんよ。。
 うちの新作ケーキやに!!』

『そうなんや。。新作ッ!!
 おいしかったわ~』

二人の上には空一面の夕焼けが広がっていた。 

『綺麗やね。今日の空。。
 私、いつも空を必ず見ることにしてるんよ。
 空は悲しい時も、楽しい時も
 私の上にあるしね。。。』

『へぇ。。そうなんや!
 俺もたまに見るんや。。 綺麗やな!』

『小学三年の時、お母さん・・・
 家出したんや。。』

『そうなんや。。』

『朝起きたら、もうこの家にはおれへんで。
 家を出ますってね!』
『たぶん、わたしのせいなんやと思うんやけど
 その空は悲しそうな色やったなぁ。。
 空っていろんで気持ちで
 いろんな色に見えるんやで。。』

『そうなんや・・・』

彼女の横顔は寂しそうだった。

『今日の夕焼け綺麗やなーー。
 俺も空を見るようにするわ!!
 最近、見てなかったしなッ』

『俺もオヤジが小さい時に家出してるんや。 。
 ゆりさん、いろいろと辛いこともあったやろ。
 でも、今やで。。今が大切なんや!
 こうやってゆりさんと夕日をみたッ!!
 俺にとって今日の空は最高の空なのだ~ 』

『そうやな。最高の空やなッ。。
 またおばさんの家に行ったってな!!』

そうしている間にバスが遠くから見えた。

『うん。また行くわ。。』

窓越しに彼女に手を振り
彼女はニコッと静かに笑った。

バスが発車し彼女の姿は小さくなった。

夕焼け空を眺めながら
なんだかとても温かい気持ちになった。     

第2章 告白

あれから数週間が経過した。

俺は学校帰りに音楽ショップに寄り
月曜日だから疲れたのか
駅のベンチに座りウトウトとしていた。

肩をとんとんと叩かれ目を覚ますと
彼女が目の前にいた。

とてもびっくりした。

『あれッ。健介君、帰りなん!!
 私も帰りなんよ。。』

『偶然やなッ!びっくりしたわ!!』

彼女は俺の横に座った。

彼女は最近おばあさんがゲートボールに
はまっている話やいろんな話をしてくれた。

俺は最近、授業中も
彼女のことばかりを考えていた。

彼女と会った偶然にとても嬉しく感じた。

俺は彼女と砂浜に行きたいと思っていた。
冬の砂浜は波が澄んでいてとても綺麗だから
それを一緒に見たかった。

『ゆりさん、海・・・行かへん。。』
 今度の日曜日・・・』

『アッ。ごめん。彼氏とかおったらまずいよな。
 アッツ。。ごめんッ。つまらんこと話して。。』
俺は何を話しているかわからなかった。

とにかくドキドキしていた。

『ええよ。。彼氏もおらんし。
 行こに。行こに!!海か・・・
 私、行ったことがないんや!楽しみやなぁ・・』

『ええのッ!!
 日曜日。このホームに
 10時に集合でもええ。。』

『うん。わかった!!』

二人は日曜日に海へ行く約束をした。

あっという間に電車が停車し
俺は電車に乗った。

彼女は窓越しに小さく手を振った。

彼女の姿が小さくなり
俺は思わずガッツポーズをした。


そして5日後・・・

明日は彼女と海に行く日。
ハイテンションでウキウキしていた。
買い物に行き、洋服を選んだ。

とにかく明日、晴れることだけを祈る俺であった。


~~日曜日~~ 

朝から思いっきり澄んだ青空。

晴天だ!

朝5時に目が覚めた。
昨日から待ち遠しくあまり眠れなかった。
新しい服を着て髪を整えた。

電車に乗り、約束のホームへと向かった。

電車を降り、時計を見ると9時30分だ。
彼女の姿はまだなかった。

青空になってよかった~
そう思いながら空を眺めていると
『ワッツ!』と声がした。

振り返ると彼女がいた。


『ハハハハッ。びっくりした?!
 晴れたなーー!!』

『晴れたな!もうびっくりしたで!!』

二人は電車に乗った。

日曜日のためか家族連れやカップルが多い。

『来る途中、犬を散歩させている
 おじさんがおってな・・・』

二人はいろんな話に盛り上がった。

次は降りる駅だ。
二人は席を立ち、ドアに向かった。

降りる人は誰もいなかった。

電車を降り、海へと向かった。

人通りの少ない商店街を歩きながら
そっと潮風を感じた。

坂を登るとそこには海があった。
冬だからなのか誰一人いない。

青く澄んだ空に綺麗な海。
冬なのに心地のいい爽やかな潮風。
止まることのない波の音。

二人は無言のままだった。


『すごーいなぁ。。
 私。海に来たん初めてなんや。。
 すごいなー。綺麗や!!』

『俺は小さい時、親父と来て以来。 。
 小さかったけどすごく印象に残ってるんや。
 ここへゆりさんと来たかったんや。。』

二人は無言で砂浜の流木の上に座り海を眺めた。

かもめが心地よさそうに上を飛んでいた。


しばらくして彼女が静かに話し掛けた。


『香織と私、いつも一緒にいたんや。。
 香織ってすごく優しくて
 私なんかと全然違う・・・』

『香織、幼稚園の頃から
 いじめられとったんや。。』

『砂場で遊んでいると砂を背中に入れられたり
 折り紙を折ってもすぐに破られたり・・
 小学校に入学してもいじめは
 なくならなくてエスカレートしていった。。。』

『私もあいつらが許せなくて
 許せなくて、殴ったこともあった。。                     
 香織とはクラスが違ったけど
 帰る時はいつも一緒でいつも笑顔だった。。』

『・・私も3年の頃から
 いじめられるようになって・・ 
 私が的にされたから3年の頃から
 香織のいじめはなくなったんや。。』

『あれでよかったんやけど。。。。』

『それから今までずっといじめは続いていて・・
 学校では少し、私荒れてたかなっ・・
 陰湿ないじめばっかでさ。。
 うちは本当は気が弱いんや。。
 だから茶髪にしてたこともあった。。
 その方がみんな近寄らんかった・・・
 でも健介君と前に話して元気が湧いたんや。
 もっぺんそのままの私で学校に行ってみるわ。。
 影で陰湿なことする奴には負けへんで!!』

彼女の学校での様子を黙って聞いた。
彼女は少し微笑んで俺に伝えた。 

近くにサッカーボールが落ちていた。

『サッカーしよかッ!!』 

『うんッ!』 

彼女は立ち上がりボールを
俺の方へ軽く蹴った。

二人は子供のようにはしゃぎ、サッカーをした。


時間も経過し、空一面夕焼けで真っ赤になった。


『ゆりさん、俺と付き合ってください!!!』


俺は告白した。
心臓がバクバクしているのがわかった。

波の音だけが静かに聞こえていた。

『えぇッ。うちなんかでええの。。』

『もちろんや。。ゆりさんといると
 なんかすっごい落ち着くんや!』

『私、めちゃくちゃあかんで。。』

『そんなことないよ。。』


『付き合ってください!!!』
波の音がかき消されるくらいの
大きな声を出した。


俺は彼女の目をみて真剣に伝えた。



『・・・ええよ』
   『こちらこそお願いします!!!』

とてもとてもとても嬉しい気持ちだ!!!

彼女はニコッと微笑んだ。
俺も恥ずかしそうに微笑んだ。

しばらく砂浜で海を眺めて
二人はいろんなことを話した。


海は夕日で綺麗に染まっている。

『帰ろかっ。。』

二人は立ち上がり砂浜を後にした。
近くの自動販売機でジュースを2本買い
駅まで飲みながら歩いた。

商店街に入り波の音が
静かになっていった。


この日はお互いがとても緊張した日かもしれない。


駅に着き電車を待ちながら
恥ずかしいような嬉しいような・・・
そんな気持ちだった。


そして電車がきた。
二人は電車に乗った。

日曜日の夕方なのか電車の中は
家族連れとカップルでいっぱいだ。

座る席がないのでドアの前に立った。

電車の窓から夕日を眺めた。

二人は何気ない話に盛り上がった。

俺はあの時の事を思い出した。

香織さんが電車の中で泣いていたことを。
そして階段から転倒したことを。
あの涙はなんだったんだろうと。。

あの時、香織さんが
泣いていたことを伝えようとした。

『ゆりさん、あのさぁ。。』

『えっ、何!』

『いや、なんでもない。。』

しかし・・・
彼女の楽しそうな笑顔を見ていると
伝えることができなかった。

二人は何気ない話に盛り上がった。
窓の外は日が沈みだんだんと薄暗くなってきた。

次は彼女の降りる駅だ。

彼女は鞄からメモを取り出し
自宅の電話番号と名前を書いて渡した。
俺も彼女に電話番号を教えた。

『私、バイトしてるから9時以降なら
 自宅にいるし電話してもいいよ。
 親父はいつも仕事で遅いから
 たぶん私しかでやへんし。。』

『うん、わかった。
 俺も9時までバイトやし・・・』

彼女は工場で部品の組み立てのバイト。
俺はガソリンスタンドでバイト。
互いに毎日学校を終えて
バイト先に向かう日々だ。

『もう降りる駅やな・・・』

『今日は楽しかった。ありがとう。。
 なんかあのでっかい海、
 目を閉じると浮かんでくるわ!!
 綺麗やったな。。。』 

『そうやな。綺麗やったな。。
 行けてよかったわ。また行こな!!』


電車が駅に到着した。


『健介君、またね。また電話してな!!』

『うん。するわ!』


ドアが閉まる寸前、俺は電車から急に降りた。


『あのさぁ、暗いし送ってくわ!』

『えっ、びっくりした!!ええのに。。』

『送ってくわ!!』

『ありがとう。。』

彼女は少し微笑んだ。

階段を降りながら話す二人。

『うち、自転車やに・・』

『あっ、ええよ。俺、走っていくで!!』

『こんなんあかんわ。。
 前みたいに二人乗りでええよ!』

改札口に行くと以前の駅員の牧野さんがいた。
牧野さんとは香織さんのお葬式以来だった。

『おう、木下君、久しぶりやな!!』

『お久しぶりです』

『おばあさん、最近、会ったか。。』

『はい・・・・』

牧野さんに誕生日会のお話をした。

『そうか。なんか、安心したわ!』
『あれっ。木下君の彼女?』

『はい。はじめまして。。』
彼女はにっこり笑い挨拶をした。

『あっ、はじめまして!!』

『木下君、駅に来たら、またいつでも寄ってな!』

『あっ、今から彼女送るだけなんで
 またここに戻ってくるんです!』

『あ、そうか。気をつけてな。。』

二人は牧野さんに礼をして駅を後にした。

自転車置き場に着き、彼女を後ろに乗せた。
二人乗りで彼女の家に向かった。


冬の風が冷たいが満天の星空だ。


俺はゆっくりペダルをこいだ。

『健介君、空、綺麗やな。。』

『すごい綺麗やん。』

『星がいっぱいや!!』

『あぁ。また明日から学校か・・。
 健介君!今日は最高に面白い1日やったわ。
 ありがとう!!』

彼女の家に到着した。
部屋はまだ暗い。

『親父、仕事でまだ帰ってないから。。』

『そうなんや。いつも遅いの。』

『うん・・・』

『今日はありがとう。。もう行くわ!』

俺は走って駅まで行こうとした。

『ちょっと待って!!
 駅まで走ってくん。そんなん悪いって。
 自転車乗ってってええよ。。
 うち、明日学校バスで行くから!』

『走ってくよ!』

『ええって。ええって。
 乗ってって。ちょっと待っとって。。』

そう言いながら
彼女は家の中に入って行った。

戻ってくると同時に
自転車の合鍵を差し出した。

『ジャーン!!!これ合鍵。。
 健介君も使うことあるかもしれへんから
 持っとってええよ。。』

『わかった。ありがとう。。』

俺は合鍵を受け取った。

『今日はありがとう!!』
『こちらこそ。。』

俺は彼女に手を振りながら
自転車を走らせた。



空は星でいっぱいだった。



駅の駐輪場に到着し
公衆電話から彼女の家に電話した。
どきどきしていた。

『もしもし。立花です・・』

『あの立花さんのお宅ですか。
 木下といいますが・・
 ゆりさんいらっしゃいますか。。』

『あっ。私。私に決まっとるやん!!』

『そうか。。』

『うちの家に電話かけて
 女の声は私だけやでな。なんやった。。』

『あっ。今、駅に着いたわ。自転車やけど。
 一番端っこに止めといたでな。。』

『ありがとう。』

『明日、バスで駅まで行かせてしまうな。
 ごめんな。。』

『なに言っとるん。嬉しかったよ。
 ありがとう。気つけてな。。』

『うん。じゃぁ、またな。。』

『またね。。』 

電話を切り、改札口へと向かった。

駅員の牧野さんが改札口にいた。

『おう。。お帰り!かわいい彼女やな!!
 またおばあさんの家も行ったってな!
 気つけて帰ってな。』

牧野さんはそっと手を振ってくれた。

ホームに着くと電車がすぐに来た。

電車に乗り彼女にもらった
自転車の合鍵をもう一度、見た。


キーホルダーには『健ちゃん』と
名前が書いてあった。

なんだか二人に合鍵があるということに
温かい嬉しさを感じた。  



あれから数週間が経過した。


二人は放課後
駅で待ち合わせをして海に何度も行った。

けんかもした。

おばあさんの家にも毎日のように行った。


今日の放課後も二人は駅で待ち合わせをしていた。
今日は彼女の誕生日だ。
彼女と海へ行く約束をしている。

おばあさんの家で誕生日をしようと言っていたが
おばあさんは昨日から風邪をひいている様子だ。

俺は1週間前から彼女への
プレゼントに迷っていた。
そして買ったのがシルバーの指輪だった。

彼女とデパートに行った時
彼女が『かわいい指輪!』と言ったことが
忘れられなかったからだ。

今日は夏にもらった花火をしようと約束している。

夏に近所の人に花火をもらったが
部屋の片隅に置きっぱなしになっていた。
それを彼女に伝えたら海で
しようという話になった。
誕生日に花火いいかもしれない!
ただそれだけのことだ。

二人は待ち合わせ場所で会い
制服のまま海に向かった。

電車を降り海へと歩いた。
いつもと同じように
何気ない話に盛り上がった。

放課後、海に来る時はほとんど夕方。
綺麗な夕焼けだ。

海に来る時、二人は砂浜にある
決まった流木の上に座っていた。

二人は自動販売機で買った 
ホットココアで乾杯をした。

『ハッピーバースデーツーユー・・・』
『誕生日おめでとう!!』

『ありがとう!!』
彼女は静かに微笑んだ。

『これからもよろしくな!!』

『もちろん。うちこそよろしくなっ!!』

俺は鞄から花火を取り出した。

『ジャーン!!花火!』

花火といっても線香花火と
棒花火とパラシュート花火だけだ。

彼女に線香花火を持たせ火をつけた。

風がないので上の方まで
パチッパチッと綺麗に光っている。
棒花火も綺麗だ。

二人は童心にかえりはしゃいでいた。
俺は棒花火を持ち手をグルグル回した。
線香花火も棒花火ももうなくなった。

まだ夕方だから海が夕日で
キラキラと輝いている。

花火は全部なくなり俺は軽く咳払いをした。

『エッヘェン!!』

『最後に今日のクライマックスを
 始めたいと思います!!』

俺は彼女を流木に座らせ
数週間かけてペットボトルで
製作したロケットを
リュックから取り出し見せた。

『今からゆりちゃんのために製作した
 木下健介の研究発表会を行います!!』

『エッヘェン!!』

『このペットボトルロケット
 炭酸飲料が入っていたペットボトルに
 水と圧縮空気を入れて
 一気に弁を開放させることにより
 噴出する水と空気の反作用によって
 飛行するロケットの模型であるのじゃよ。』

『ははッははッ!すごいね!』
彼女は輝いた目で俺の顔をじっと見ている。

『では、木下健介の研究を
 発表したいと思います!』
『では、いきますよ!5・4・3・2・1・』

『パシューン・・・』

勢いよくペットボトルが空へ飛んだ。

ペットボトルは上空で中がキラキラと輝き
それを彼女はじっと見ていた。

しばらくすると外面に付けた
3つのパラシュートがゆっくり落下し
銀色の紙ふぶきがパラパラと舞っている。

夕日とマッチして銀色の紙ふぶきも
オレンジ色になったりしてキラキラと輝いている。


『なに!これめっちゃ綺麗!!』


彼女は立ち上がった。


二人の上から紙ふぶきがパラパラと舞っている。


二人は空を見上げている。


『これ!すごいッ。。』


パラシュートが下に落ちた。。


『あの一番小さなパラシュートを
 取ってきてくだされ!!』


俺は前日、小さなパラシュートの筒に
『ゆりちゃん、誕生日おめでとう』と書き
筒の中には指輪を入れておいた。

そして、2つの大きなパラシュートの
傘の部分に銀紙を細かく切って入れておいた。


彼女はパラシュートを手にした。


『あっ。ありがとう。。。』

『お誕生日おめでとう!!』

『・・・ありがとう。。』


『筒の中!見てくだされ。。』
『ありがとう!!』


『お誕生日おめでとう。。』

『健ちゃん、いや、木下博士ッ
 ありがとうございます!!
 びっくりした。。』
  
『内心ドキドキしてたんや!!
 ペットボトルが飛ぶのか。
 パラシュートが落ちやんだらどうしようとか。。
 海に飛んでったらどうしようとか。 。
 でも風がなかったでよかった。。』

『めっちゃ嬉しいわ。。本当、ありがとう!!』

俺は彼女の指に指輪をはめた。

思った以上の演出に俺はドキドキしていた。。


二人は駅まで初めて
手をつないで歩いた。

『健ちゃん、ありがとう。。
 今日のこと忘れないように
 日記に書くねッ!!』

『えっ、日記書いとんの?』

『小学校の時は書いてたけど
 今は書いてない。。
 でも、今日から・・・
 もう一度書きたいなぁって思って。。』

『そうなんや。。
 俺は小学1年の夏休み以来
 日記は書いてないなぁ・・・』


『健ちゃん、これッ。。』

彼女は立ち止まり少し早い
バレンタインチョコを俺に渡した。
彼女の手つくりでチョコの箱には
『From the bottom of my heart』
と書いてあった。

あれから・・・・

いっぱい笑った。

いっぱいケンカもした。

いろんな場所に行った。


そして二人の大好きな海にも何度も行った。  


第3章 過去の傷

あれから数週間が経過した。

今日は日曜日。
彼女とおばあさんの家で
昼食を食べる約束をしている。

駅に着くといつも通り
端に自転車が置いてあり
彼女の家まで自転車を走らせた。

家に着きチャイムを
何度も押してたが彼女は出てこない。

『ゆり・・・おらへんのか。。』

俺は少し大きな声を出した。

すると彼女のお父さんが出てきた。

二人は初対面だ。

おとなしそうな小柄なお父さんだ。

『ゆりはもう秋野さんの家に行ったよ。』

『あぁ、そうですか。
 はじめまして木下健介と・・・
 いいます・・
 ゆりさんとお付き合いさせてもらってます。』

『ああ、そうなんや。。
 全然、知らなくてなぁ・・。よろしく・・。。
 最近、あんまり娘と話さんからな・・・』

二人はぎこちない様子だ。

『あぁ、木下君・・
 まぁ、家にあがってって・・』

『はい』

二人は台所の椅子に座った。
・・・少し無言の気まずい時間が続いた。


しばらくしてお父さんが話し掛けた。


『木下君、ゆりのこと頼むわな・・・』

『はっ、はい・・』

二人はまた無言になった。

『木下君・・・・・』

『はい・・・』

『あのなッ・・・・』

お父さんは静かに話し掛けた。

『ゆりが小学校の時。。
 町内会で川へバーベキューをしに行ったんや。
 あいつ・・前の晩・・ 
 いろいろ準備して楽しそうやった。。
 あのゆりの楽しそうな顔が忘れられやんわ・・・
 あれから親子の時間は止まっとる。。』



お父さんは再び黙り
この日の出来事を静かに伝えた。


ーーーお父さんの話はこういった内容だった。ーー

小学3年の時に町内で川原に行き
バーベキューをして楽しい時間だった。

食後に子供達が川辺で遊んでいた。

しばらくして大声がした。

香織さんが川に落ちたのだ。

川に落ちたボールを香織さんが取ろうとして
急流に巻き込まれたらしい。

大声をあげ助けを求める子供達。

近くにいた香織さんのお父さんが顔色を変えて
川に飛び込み必死に香織さんを抱きかかえた。

戸惑う川辺の人たち。
お父さんは川の真ん中にある石に
香織さんを必死に乗せ力尽き流された。

香織さんの意識はなかった。

なぜこうなったんだと戸惑い集まる人達。

『ゆりが香織のボールを川に投げたから・・・』

一人の子がつぶやいた。

ゆりは何かを言おうとした。

『私、私・・・』 

そこでゆりのお母さんが急にビンタをした。

『何でこんなことをしたの!!』

そして皆に土下座した。

『娘のせいで・・・娘の・・・すいません・・』

お父さんは呆然として何も言えなかった様子だ。

ゆりはうつむき泣いていた。

鳴り響く救急車と消防車のサイレン音。

皆の視線は冷たい。

その後、香織さんは病院で意識を取り戻した。
悲しいことにお父さんの遺体も確認された。
ゆりの家族はおばあさんと香織さんに
何度も謝った。
おばあさんは無言で
何も言わず何も怒らなかった様子だ。

その後、ゆりも香織さんも学校へ行った。
時が経過しても香織さんはゆりを無視し続けた。
いつも仲のよかった二人。
学校では先生に隠れての
『殺し屋』といじめられる日々。
それでもゆりは学校へ行った。
近所の目線も冷たくお母さんは離婚し
家を出て行った。
ゆりにとって二度目のお母さんだった。
それ以来も引越しせず
二人でここに住んでいるということだ。

香織さんは今まで学校でいじめられていたが
ゆりに皆の目線がいき
香織さんのいじめはなくなった。

ゆりはお父さんとそれ以来
口を利かないみたいだ。


『ゆりのこと頼むな。。
 最近、あいつ、俺には喋らんけど
 すごくいい表情してるんや。。
 そんな表情をみてると俺も嬉しい。。。』

お父さんは涙ぐみ俺の目をじっとみつめた。
俺も同じようにお父さんの目をじっとみつめた。

『もちろんです!!
 俺もゆりさんと知り合い毎日が
 いきいきしてます。
 過去は過去です。
 今の僕にとってゆりさんの過去は
 僕の過去と同じです。
 ゆりさんがそのことに傷いているなら
 僕も同じように心が痛いです。』

『そうか。。。』
お父さんは静かに呟いた。



お父さんの話は続いた。

それから香織さんはゆりと三年間話さず
無視してゆりへのいじめにも加わった。
ゆりはそれからずっといじめられた。
毎日、家で泣いていた様子だ。
ゆりは毎日、香織さんの家に手紙を届けた。
どんな日も・・・毎日、毎日届けた。
お父さんはその後ろ姿が忘れられない。
小学6年の卒業式の数日前
おばあさんが香織さんを
玄関に無理やり連れ出した様子だ。
そのことをきっかけに二人は
いろいろ話したらしい。
香織さんとゆりの間にどんな会話が
あったのかはお父さんは知らない。
それからゆりは毎日のように
香織さんの家に遊びに行っている。
それ以後、香織さんも
ゆりのいじめに加わらなかった。

二人はゆっくりゆっくり時間をかけ
以前のように仲良くなったとのことだ。

俺の目にもいつの間にか涙が溢れていた。

『今日の話は僕の心の中へ入れておきます。
 お父さん、僕に伝えたこと 
 ゆりさんには言わないで下さい。
 ゆりさんから聞ける日が来るかもしれません。
 だから僕は心の中へ入れておきます。』

『そうか。わかった!!ありがとうな。』



俺はお父さんと約束しおばあさんの家に走った。

        
『こんにちは!!』

俺は元気いっぱい玄関で声を上げた。

『遅かったなー!事故でもしてへんか。
 心配しとったんやで。。』

『ごめん。ごめん。寝坊して・・・。』

『健ちゃん。よう来てくれたなぁ。
 ありがとう。。』

二人はニコニコと出迎えてくれた。

昼食を食べ、いろんな話に盛り上がった。

ゆりとおばあさんの顔を見ていると
お父さんの話を信じることができなかった。

ゆりの笑顔。
おばあさんの笑顔。
過去にいろいろとあった二人。

二人の微笑みを見て
『今』という時間の大切さを心から感じた。

そして二人の笑顔をいつまでも守りたいと
心の中でそっと誓っている自分がいた。

第4章 ふたりの楽譜

あれから数週間が経過した。


今日は朝8時におばあさんの家に集合だ。
三人はお花見に行く約束をしている。
俺は自転車に乗りおばあさんの家に向かった。

『おはようございます!!』

『おはよう。健ちゃん!』
『もうすぐバスが来るからバス停に行こッ!』
二人は玄関で待っていてくれた。

三人はいつも以上にハイテンションだ。
バスに乗り、桜で有名な公園に向かった。

日曜の朝早いためか
誰もいないバスの中は
俺たちの楽しげな声だけが響いていた。。

30分後に公園に到着した。

『うわぁ。。綺麗やなぁ。。』

『綺麗やなぁ。。。』

『桜でいっぱいやッ。。』

公園は満開の桜でいっぱいだった。

三人は桜の美しさに感動し
公園の入り口で思わず立ち止まった。

朝早いが公園にはたくさんの人がいた。

公園をぐるっと1周した。

おばあさんは少し疲れた様子だ。
大きい桜の木の下に
小さなゴザを敷き座った。

座ると近くで一人の男性が
トランペットの練習をしていた。
途中で鳴り止む事もあるが心地よい響きだ。

二人はじっと見ていた。

『香織のこと、思い出すな・・・』

『そうやなぁ・・ゆりちゃんもそう思う。。』

『香織とゆりちゃん
 私の誕生日に演奏を披露してくれたな。。』

『そうやったなぁ。あの時は結構、練習したな~』

『そうか、ゆりちゃんの
 フルートもうまかったよ!』

『なんか、懐かしい響きで思い出した。。』

2年前のおばあさんの誕生日に
香織さんとゆりが自分達で曲を作り
おばあさんに披露したらしい。 

おばあさんは懐かしそうな目で
男性をみつめていた。

『おばさん・・・
 今年の誕生日、演奏会するでなッ!!
 楽しみにしといてな。。』

彼女はおばあさんにニコッと微笑んだ。

『ありがとう。。楽しみにしとくわな。。』

『今年は凄いんやで~
 健ちゃんも演奏会に参加するでなッ!!
 ねッ、健ちゃん!』

『えっえ、俺、楽器というか・・・
 楽譜も読めへんで・・・』

『大丈夫、私が教えるから。
 まっかせなさい!!』

『あ・・ぁ・・。わかった。。。
 おばさん、練習するから
 楽しみにしていてな!!』

『こりゃ。楽しみ。。 楽しみ。。
 二人ともありがとうな!』

『さぁ、少し早いけど弁当食べよっか!』

二人は朝6時から今日の昼食を作ってくれていた。

『健ちゃん、いっぱい食べてな!!』

『うおぉ。すごい!!』

三人は青空の下で
桜を見ながらおにぎりを食べた。

周りもにぎやかでいろんな人が
笑いながらお弁当を食べている。


俺たちも話が盛り上がり
大笑いしたりして最高の時間だ。


心地よい春の風と空の青さが心を癒した。


あれから1週間が経過した。

二人は学校の帰り
ホームで待ち合わせをして海に向かった。

春の温かい風が心地よく吹いていた。

砂浜にあるいつもの流木の上に座った。

『ジャーン!』

彼女は鞄からフルートを取り出した。

『すごいなぁ。フルート!!
 初めて見るわ。フルート!!』

『前、おばさんと話したやんなぁ。
 これで演奏したんや。。
 これッ、私の死んだお母さんが
 保育園の時くれたんや。。
 お母さんが大切にしてたんや。。。
 だから私の宝物!!』

彼女のお母さんは学生の時から
吹奏楽部でフルートを演奏していた様子だ。

彼女は嬉しそうに話した。 

『香織と演奏した曲、聴いてみる。。』

『聴きたい!!!』

彼女は静かに演奏し始めた。
心地のいい曲だ。

俺は今まで見せた事もない
彼女の姿をみて不思議な感じだった。

波音とフルートの音色が重なりとても癒された。

空はゆっくりと紅く染まってきた。

この日から二人はおばあさんの誕生日に
喜んでもらおうといろいろと相談した。


そして数週間が経過した。


二人はおばあさんの家にも遊びに行っていたが
誕生日の演奏のことは内緒にしていた。

なんだかおばあさんを楽しませる
二人だけの秘密のような感じでワクワクしていた。

俺の家の押し入れには親父が使っていた
古いフォークギターが昔から眠っていた。

そんなことで彼女のフルートに合わせて
ギター演奏をすることに決まった。

彼女はギター演奏もできるので
この日から俺はギターを教えてもらった。

歌の題名は『涙晴の空』

俺が作詞をし、それに彼女が曲をつけた。
題名は二人で考えた。

二人は何度も海に行き、練習を重ねた。
・・・というより海でこの曲を
演奏する事が当たり前のようになっていた。

『健ちゃん・・
 このノートじっくり見て練習してなッ!』

『わああぁ、ありがとう!!
  ゆり、これ書いてくれたん!』

『うん、焦らないでゆっくりでええよ。。
 一緒に練習してこなッ。。
 おばさん、喜ばそうねッ!!』

ノートにはギターの演奏の仕方が
1ページ1ページ細かく書かれていた。

おばあさんの誕生日までまだ半年近くあるが
彼女の演奏はバッチリになっている。
俺のギター演奏はイマイチだが・・・。 

静かな海の波音とフルートの音色は
二人にとって癒しとなっている。


あれから数ヶ月が経過した。

二人はこの数ヶ月
バイトの休みを合わせて
海に通っていた。 

夏休みになりここ最近
毎日、海に通っていた。

今日もホームで待ち合わせ海に向かった。

いつもの流木の上に座り
海を眺め楽しそうに話す二人。

もちろん今日も演奏をした。

『ゆりのフルート、心癒されるというか・・・
 すごく落ち着くな。。
 絶対、おばさん喜ぶわ!!』

『健ちゃんの詩もいいなぁ。。
 ぜったいおばさん喜ぶと思う。
 おばさん、いろいろあったから
 楽しませたいんや!』

『絶対、おばさん喜んでくれる!!』

二人はおばあさんを
喜ばすことが物凄く楽しみだった。

俺にとってゆりのいきいきとした表情を
みることも毎日の楽しみだった。   

『さあ、帰ろうか!』

今日は練習を長くしたから
日が沈み、暗くなっていた。

二人は立ち上がり
楽譜と楽器を鞄に入れようとした。

・・・二人が帰ろうとした時
激しいバイク音が停止し
向こうの砂浜から5人位の暴走族が近づいてきた。

『おーい!お前ら暇そうだな!!!』

距離は30メートル位離れている。

『やっ、やばいぞッ。。ゆり!逃げるぞ!!』
『健ちゃん、急ごう!』


二人は鞄を抱え思いっきり走った。

『なんじゃあーー!!!
 お前らーー!待てやッ!!』

俺は後ろを向いた。
後ろの5人は必死に追いかけてくる。

必死に逃げる二人。

二人とも足が速いのか
追いかけてくる連中の足が遅いのか
距離は少しずつ離れている。

しかし諦めずにいつまでも追いかける連中。

その時、ゆりが『アッ!』と声を上げた。

とっさに鞄に入れたフルートが落ちたのだ。
急いでいたので鞄のチャックもしなかった・・・。

振り返りながら走る二人。
連中も大声を上げて追いかけてくる。

俺は走りながらゆりに話した。

『ゆりはとにかく逃げろ!!
 とにかく逃げろ!!駅まで走れよ!』

『ええっ!健ちゃんは!!』

『とにかく駅まで行けッ!
 行って助けを呼んでこいッ!!』

俺はそう言うと同時にギターを足元に置き
連中の方へと走って行った。

後ろではゆりが大声で叫んでいる。

『健ちゃんーーー!!!』

『ゆり!!走れ!走るんやーー!』

俺には前から走る連中の姿は目に入らなかった。
ただフルートを・・・
という気持ちでいっぱいだった。

『これッ、私の死んだお母さんが
 保育園の時くれたんや。。
 お母さんが大切にしてたんや。。。
 だから私の宝物!!』

笑って話してくれたゆりの顔が浮かんでいた。


そのことを思うと同時に
フルートを覆うように地面に倒れた。

『おい!!!
 お前、何、俺らから逃げとんのやッ!!
 腹立つ奴やなぁ
 俺たちはお前たちが
 逃げたから追いかけたんやッ!!
  ・・じゃなくて最初から
 目つけてたんやけどなー』

連中の大きな声が砂浜に響き渡った。

後ろを振り返るとゆりは遠く離れている。
連中の一人がゆりを追おうとした。
俺はその男の足を掴んだ。
その男は後ろに倒れた。

『痛いなぁ!なんちゅうガキや!!』
『なんじゃッ、このガキ!!』
『それにお前、何を大事に隠してるんやッ!!!』
『こらッ、見せろや!!
 逃げてたくせによッ・・
 戻ってくるところをみると、財布かッ。。』

連中は俺が隠している物を取ろうとした。
俺はフルートを覆うように
ずっと地面に倒れたままだ。

『なんやッ!コイツ!
 早く、財布だせッ!コラーーー!!!』

俺は絶対に見せようとしなかった。

連中のひとりが俺の顔面に蹴りを入れた。
それと同時に全員が全身を力の限り蹴り始めた。

『コラぁぁ!!しぶとい奴ーー。見せろッ!!』

そう叫びながら全身を蹴る連中。
俺は海老のように丸くなり
絶対にフルートを見せなかった。

頭のなかでおばあさんと彼女の
笑顔が交互していた。

意識は朦朧としてきた。

でもフルートだけは離さない・・・
この思いだけが俺の意識を守った。  

その時、彼女は駅の交番で
警官に助けを求めて海岸に
パトカーで向かっていた。

かすかにパトカーの
サイレン音が聞こえてきた。

連中はバイクに乗り逃げて行った。

砂浜にはただひとり
俺が倒れていた。

『健ちゃん・・・・』

ゆりは震えていた。

俺は血だらけになり微笑んだ。

『ゆり、これ!宝物。。』

俺は服の中に入れてあったフルートを
血だらけの手で彼女に手渡した。

救急車のサイレン音が
だんだんと近づいてきた。

『健ちゃん・・・・・』
ゆりの声がかすかに聞こえた。

第5章 遠い記憶

俺はタンカで運ばれた。


警官が無線で応援を呼ぶ中
彼女は救急車に乗り込んだ。

その時、俺の口には酸素マスクが付けられ
応急処置がされていた。

『健ちゃん、ごめんな。健ちゃん・・・』

かすかにゆりの声が聞こえ
意識がなくなった。

☆<次の☆まではゆりから後から聞いた話です>☆

彼女はフルートを手にギュッと握り締めて
何度も俺の名前を呼んでいた。

その後、俺は病院に救急搬送され
集中治療室に入った。

暴行を受けたとのことで彼女は震えながら
警官に事情を話した。

しばらくして中年女性が彼女の肩を
トントンと叩いた。
その女性は俺の母だった。

二人は初対面だった。

『あなたがゆりちゃん!』

『はい。はじめまして立花ゆりです。』

『はじめまして。健介の母です。。』

『すっ。すいません。私が健ちゃんを・・・』

『すいません。すいません・・・』

彼女は泣きながら何度も母に謝った。

そして母は・・・・

ニコッと笑った。

『ゆりちゃん、なんで泣いてんの。。
 大丈夫って!!あの子はそんなことで
 くたばる男じゃないから! 
 ゆりちゃんが1番よく知っとるやろ。。
 大丈夫って!!
 それやし・・
 何でゆりちゃんが謝るん。
 二人とも何も悪くないよ。』

そう言いながら涙で頬を濡らす
彼女の背中を母は何度もさすった。

家にも警察から電話があった様子だが
母は何も動揺していない様子だった。

そんな母の姿を見て
ゆりの涙は時間と共に静かに止まった。


『・・・・・・そうですね!! おばさん!
 私たちが泣いてたらだめですね!』

『そうよ。ゆりちゃん。。よく言った!!
 今は信じよッ。あの子の体力を・・・』

二人はニコッと微笑んだ。


しばらく無言の時間が続いた。


そして母が彼女に話しかけた。

『ゆりちゃん、今日、何があったの。。』

『あっ、あ、はい。・・・・』

彼女は今までの練習のことや
今日、起こったことを伝えた。

『・・・』
母は無言だった。

しばらくして母が話した。

『あぁ!あの子らしいなぁ。。』
『あのね。ゆりちゃん。
 私、あの子小学校2年の時に
 すごく叱ったことあるんよ・・・・』

『はっ。はい。。』


ーーーー母の内容はこうだったーーーー 

健介は近所の雄二にずっといじめられていた。
二人は保育園の頃から仲良しでいつも遊んでいた。
二人には好きな子がいた。
しかも同じ子だ。
名前は奈美ちゃん。
バレンタインの日に
健介は奈美ちゃんにチョコをもらった。
・・・しかしは雄二もらえなかった。
いじめの原因はそのことだ。
その日を境に雄二は健介と
距離をおくようになった。
健介は母にいじめの事は言わなかった。
それは父が家出をして
母が毎晩、落ち込んでいたからだ。
子供心ながら気を使っていたのかもしれない。
健介へのいじめは毎日、続いた。
靴隠し、給食に消しゴムのカスを入れる
長靴に穴を開ける、無視・・・。
小学生低学年ながら
教師の目を盗みながらの陰湿ないじめだった。

ある日、雄二は健介に謝った。
『ごめん。今まで悪かった。公園で遊ぼう!』 と

健介はすごく嬉しかった。

ランドセルを家に置き、すぐに公園へと向かった。

しかし・・・公園に着いた健介に
まっていたものはいじめだった。

『昨日、お前の為にみんなで
 たくさん作ったんや!』

そういいながら泥団子を健介にぶつける雄二たち。
健介は身動きとれず壁際で泥だらけになった。
雄二たちが笑いながら帰ろうとすると
裕介の自転車の鍵がない。
健介は倒れているがそれを無視して
探し廻る仲間たち。
日も沈み、雄二をおいて帰る仲間。
雄二も明日、探そうと家に帰った。

次の朝。
健介は雄二に鍵を渡した。

健介はみんなが帰った後も
ずっと鍵を探していたのだ。
寒い冬だった。
ライトもないので外灯の明かりだけだ。
泥だらけになり手探りで必死に探した。
そしてやっと見つけたのだ。
健介は鍵を握り締め、家に帰った。
家に着いた時は夜中12時を過ぎていた。
心配していた母は健介が帰ると同時にビンタした。 
健介は何も言わなかった。
ただごめん。。といって
泥だらけの服を脱ぎすぐに風呂に入った。

次の日、雄二に鍵を渡したが
いじめは続いた。
ある日、雄二が給食の時間に嘔吐したことがあった。
これを機に雄二と一緒にいた子は離れていき
いじめの目は雄二に向けられた。
ある日、健介も雄二の無視に
加わるよう連中から誘われた。
健介はこの連中の誘いを無視した。
雄二はなぜ、こんな俺を無視しないと聞いた。

『誰だって吐くやん。
 こんなんで無視する理由がわからん。。』

健介は軽く答えた。

それ以後、二人は以前のように仲良くなった。
このことを知っているのは
雄二が健介の家に遊びに来た時
母に今までのいろんなことを話したらしい。

【俺はは今までいじめの事や
 自転車の鍵の日のことは
 一度も母に話したことがなかった
 俺はただ雄二と昔のように仲良くなりたかった】

彼女はじっと母の話を聞いていた。

『あの子らしいよねッ。。
 フルート取りに行ったあの子の気持ち!!
 なんかわかるわ。。
 あの子の気持ち大切にしてあげようねッ!!』 

『私もあの子がフルート置いて
 逃げていったら逆に怒叱っていたわ。。
 だからもう泣いたらあかんで。。ゆりちゃん!』

『はっ。はい!!』



しばらくして集中治療室から医師が出てきた。 



二人は医師の所へ駆け寄り
医師が説明を始めた。

頭や背中、顔に皮下出血の傷が多くあり
左大腿骨の骨折も確認された様子だ。

『数カ所の骨折もあり、負傷の程度が重く
 今後、ギプスで両足を固定することになり
 治癒に長い時間がかかります 』


目をみつめ合わせる二人。 


しばらくしてストレッチャーに乗せられ
俺は集中治療室から出てきた。

顔はあざだらけで腫れ上がり
頭には包帯が巻かれていた。


☆≪ここまでがゆりから聞いた母との会話≫☆


『・・・・ゆり!母ちゃん!』


翌朝、俺の意識ははっきりとしていた。

俺は病室に運ばれた。
しばらくの間、個室での療養となった。


ゆりは何も言わず黙っていた。
 

病室に入ると、母とゆりの視線が集中した。
ゆりは思い詰めた表情で俺をみつめた。

『大丈夫。。』 
悲しそうに、ゆりが聞いてくる。

だけど、俺はそれに応える元気がない。

『ゆりちゃん!!大丈夫って。。
 こんな怪我でコイツはくたばりません。
 健介!また夕方、いろいろ持ってくるな。
 また夕方来るわ。。』
 
母は二人に気を遣ったのか帰っていった。


『大丈夫。。』
俺は少し動く唇で答えた。

ゆりの目から涙が流れていた。

彼女が無事だったことが何より嬉しかった。
 
ゆりは胸元の指輪を俺にみせた。

いつも彼女は無くさないように
ネックレスのように指輪をぶらさげていた。

あの誕生日の綺麗な夕日が
記憶の底から這い上がってきた。

……記憶が蘇っていく。

『健ちゃん!あの場所は私にとって
 大切な場所やでッ。もちろん今も!!』

俺は嬉しかった。

静かに涙が溢れ、 肩をふるわせ
布団に顔を埋めていた。


ゆりはギュッとフルートを握り締めていた。 


『健ちゃん、ありがとう!』


その『ありがとう!』が心に温かく響いた。



あれから3日が過ぎた。


俺の顔の腫れも少しだけだがひいた。

ゆりは学校帰りに毎日病院に寄ってくれている。
今日はりんごの入った買い物袋を
持ち病院に来てくれた。

『健ちゃん!今日はええ天気やなぁ!!』

『いい天気や!今日は暑いやろッ!』
話す度に骨折にすごく響くが
ゆりと話したい気持ちのほうが強かった。

『りんご、買ってきたから一緒に食べよッ!!』
そう言いながらゆりはりんごの皮を剥いた。

『健ちゃん、足どう?痛む。。』

『あぁ、ちょっとだけな。
 でも、もうよくなったと思うわ!』

二人はりんごを食べながら
ありふれた話題に盛り上がった。

しばらくして彼女は黙った。

・・・・・そして俺に話し掛けた。


『私、健ちゃんにずっと言いたかった事があった。
 ・・・・・ずっと言いたかった。。
 でも言えなくて・・・苦しかった。。』

ゆりは俺の目をジッとみて話し掛けた。

俺は「あのことではないか・・」と瞬時に思った。

『あのな、私、小学3年の時に町内会で
 川原に行ったんだ。香織とも前の日・・・
 楽しみでお菓子買いにいったりした。
 そしてな・・・・・・』

ゆりの話は、以前、お父さんの言っていた
話と少し違っていた。


ーーゆりの話はこうだった。ーー

小学3年の時に町内会で川原にみんなで行った。
前日、お菓子を買うために香織さんの家に行き
香織さんがカラフルなボールを
嬉しそうにみせてくれた。
ボールの話は学校でも聞いていた。
それは一週間前の誕生日におばあさんに
買ってもらったカラフルなボールだ。

ボールをゆりに見せながら
明日、持っていくんだ!と微笑む香織さん。
それで二人は投げあいをして遊んだ。

駄菓子屋でお菓子を買い、二人は別れた。
二人は明日が来るのがとても楽しみだった。

二人はうきうきした気分で次の朝を迎えた。
観光バスに乗り、楽しく会話し川に向かった。
ジャガイモを切ったり
にんじんを切ったり
みんな楽しそうに盛り上がっていた。

香織さんは近所の同級生に何かを
言われたのか元気がない。
突然、元気がなくなったのだ。
香織さんはクラスでいじめられていた。
もちろん同じクラスじゃなくても
いじめる子はいっぱいいた。
ゆりはいつも彼女なりに
香織さんを守っていた。
食後、川原で三人の女の子が
香織さんのボールを持っていた。
ゆりが不信に思い、近づくと
一人の女の子が釘を持っていた。
川原で拾ったのかどうかはわからない。

向こうでわいわいと盛り上がる大人達。

香織さんは少しは離れた所で
ひとりで綺麗な石を拾っていた。

ボールに穴を開けようとする女の子。
ゆりはそれを止めようとして必死になった。
ボールの取り合いになった。


そして、その瞬間・・・・・。
ボールが川に落ちた。

流れるボールに気づき
香織さんは拾おうとして
走り川に飛び込んだ。

近くにいた香織さんのお父さんが
顔色を変えて川に飛び込んだ。

お父さんは香織さんを
抱くことだけで必死だった。
必死に娘を抱くお父さん。

戸惑う川辺の人たち。
お父さんは川の真ん中にある石に
香織さんを乗せ、力尽き流された。

ゆりと女の子たちは呆然としていた。

救急車が病院に向かい
消防団がお父さんを捜索していた。


ゆりの頭の中は真っ白だった。

・・・・そして女の子がつぶやいた。

『・・ゆりが香織のボールを
 川に投げたから・・・』

彼女の手には釘がなかった。

ゆりはさっきのことを言おうとした。

『私、私・・・』 

彼女が話そうとした時
ゆりのお母さんがビンタをした。

その時、ゆりの心と言葉は凍った。

そして皆に土下座する母。

『娘のせいで・・・娘の・・・すいません・・』

ゆりの生みのお母さんは幼稚園の時に
事故で亡くなった。
今のお母さんはゆりが小学一年の時に
再婚した母だ。
ずっとゆりには冷たかった。

・・・ゆりの言葉を聞く前に手が出てしまった。

お父さんは動揺していて
何も言えなかった様子だ。

ゆりは自分の声に耳を傾けず
必死に謝る母の姿を
目の前にただ涙がでた。


・・・・・・ただ悲しかった。


鳴り響く救急車と消防車のサイレン音。

ゆりの家族を見る、皆の視線は冷たい。

香織さんが病院で処置を受けている間
ずっと待合室で待っていた他の子たちは
夜遅いのでみんな帰った。
悲しいことにお父さんが死んだことも耳に入った。
おばあさんの泣き叫ぶ声も聞こえていた。

処置が終わったのは深夜で香織さんは寝ていた。
三人は朝まで病院で待つことにした。

近くにお母さんはいなかった。
ゆりはお父さんには話そうと思った。
『お父さん・・・今日・・・』

するとお父さんは言った。

『ゆり、辛いやろ。。
 お前がしたことは悪いことや。。。
 悪いことなんや。。
 秋野さんのお父さんが亡くなったんや。
 父さんも心から謝るから。。』

ショックだった・・・。
この言葉を聞いて以来、本当のことは
ゆりの心の中にあり誰にも
言っていないとのことだ。

香織さんの退院後
家族三人で
おばあさんと香織さんに
何度も何度も謝った。

その様子を見て
当時の様子を知らなかった香織さんは
ゆりが川にわざとボールを投げたんだと
思い込んでしまった。

あの事故から1ヶ月が経過した。

ゆりが川にボールを投げお父さんが
亡くなったという噂も広まっていた。

二人は学校に通っていた。

香織さんはゆりを無視し続けた。
ゆりは香織さんに何も言えなかった。
いつも仲のよかった二人。
ゆりは悲しくて部屋の中でいつも泣いていた。
大事にしていたボールに釘を・・・
あの子たちが・・・
でも伝えることはできなかった。
香織さんの大切なボールを
手を滑らせ川に落としたのは事実だから・・・。
学校では先生に隠れて
『殺し屋』といじめられる日々。
もちろん、あの女の子もいじめに加わっていた。
彼女自身、自分が悪いなんて
全く思っていない様子で
自らが被害者のようで
香織さんの味方をしていた。

それでもゆりは学校へ行った。
香織さんは今までいじめられていたが
ゆりに皆の目線がいき
香織さんのいじめはなくなった。
ゆりはそれでいいと思った。
近所の目線も冷たく
お母さんは離婚し家を出て行った。

それ以来、お父さんとも全く話をしない。

香織さんはゆりを3年間無視し続け
いじめにも加わった。
ゆりはずっといじめられた。

・・・悲しかった。
・・・・・香織、聞いて・・・。
いつも心の中で呟いていた。

ゆりはあれから毎日
香織さんの家に手紙を届けた。
どんな日も。
毎日、毎日届けた。

ある雨の日、手紙を届けるゆりの姿を
おばあさんが見ていた。

香織さんもおばあさんも
一度も読んだことがない。
いつも捨てていた。

おばあさんはこの日の手紙を読んだ。

『香織、おばさん、ごめんなさい。
 私は今も変わらず二人が大好きです。
 おじちゃんも大好きです。
 私は二人を寂しい気持ちにさせました。
 だから私も寂しい気持ちになりました。
 私はずっと寂しくていい。
 でも香織とおばさんに幸せになってほしい。
 おじちゃんの仏壇に謝りたいです。
 許さなくていいです。
 それは当たり前のことです。
 ただ仏壇に手をあわせたいです。』

おばあさんはハッと思った。
昨日の手紙、一昨日の手紙・・・・
ゴミ箱に捨てた手紙を探った。
そして・・・・
それらの手紙にも同じことが書かれていた。

おばあさんはあの日の出来事を忘れていた。
ゆりのお母さんが事故で亡くなった日のことだ。

※5年前、近所で事故があった※
買い物帰りの女性が事故にあったと
みんなが集まっていた。
ゆりは香織さんの家で遊んでいた。
おばあさんが野次馬の中に入ると
女性が倒れていた。
トラックに自転車ごと巻き込まれた様子だ。
よく見るとゆりのお母さんだった。
家に走って帰り、ゆりに知らせた。
意識のないお母さんにゆりは何度も何度も
『お母さん!!お母さん!!』と呼んでいた。
救急車にはおばあさんとゆりが乗った。

そして救急車の中でゆりのお母さんは
息をひきとった。
ゆりは大声で泣き叫んだ。

ゆりの側でおばあさんは後悔していた。

その日、お母さんとゆりはデパートに
買い物に出掛ける準備をしていた。
その時、香織さんが家に来た。
『ゆりッ!!おばあちゃんがちょっと来てって!』
おばあさんは香織さんとゆりに
親戚から届いた栗を食べさせたかった。
ゆりは買い物に行くのをやめた。

『ゆりが行かへんのなら
 バスに乗らんと自転車で行くわ。。』
 お母さんはバスに乗らずに
 自転車で行くことにした。

そのことを責めてゆりは
病院の中で子供ながらに呟いていた。

『私が買い物に行かなかったから。。
 わたしのせいで・・・』

それを聞いておばあさんも胸が痛かった。


あの日と今のゆりの表情は同じだった。

・・・おばあさんは思った。

川にボールを投げたのは
子供心からの寂しい気持ちからだ。
川にボールを投げたゆりも悪いが
拾いに行った香織も悪い。

そして、5年前・・・
病院で泣いているゆりに掛けた
言葉も思い出した。
『こんなおばさんだけど
 お母さんと思ってもええでなっ。
 困ったことがあったら何でも言ってな。。』

おばあさんは部屋にいる香織さんを
玄関に無理やり連れ出した。

三人は仏壇の前に座ったが
静かな時間がしばらく続いた。

ただ・・涙声で『ごめん、ごめん。。』
と謝るゆりの声が仏間に響いた。

うつむいていた香織が顔をあげゆりをみつめた。

『・・・ゆりはずっと寂しい気持ちやったん。。
 そんなゆりに誕生日プレゼントを
 自慢した私が悪い。。
 あの時、川に飛び込んだ私も悪い。。』

香織自身も川に飛び込んだ自分を責めていた。     

ゆりは川にボールを落とした罪悪感もあり
ボールが川に流れた原因を
伝える事ができなかった。
・・・ボールに釘を・・・あの子たちが・・・
子供ながらにこれ以上、二人に寂しい気持ちに
なってほしくないと思っていた。

数時間が経過しゆりと香織は握手をした。
おばあさんは『ゆりちゃん、ごめんな。。』
と言って静かに微笑んだ。

ゆりは仏壇に手をあわせた。


卒業式の数日前の出来事だった。

遠い記憶 2

それ以来、ゆりは毎日のように
香織さんの家に遊びに行った。
学校帰りは寄り道をして
二人で公園で遊んだりもした。

二人はゆっくりゆっくり時間をかけ
以前のように仲良くなった。

中学になってもゆりへの
いじめはなくならなかった。
香織さんはゆりのいじめには
一切加わらなくなった。
だが・・・内気な香織さんは
助けることもできなかった。

中学入学と同時に二人は吹奏楽部に入部した。
ゆりはフルート、香織さんは
トランペットを担当した。
コンクールの練習も互いの家で練習した。

コンクールの2週間前のことだった。
クラブの数人が小声で話していた。
『ゆりやけどさぁ、人を死なせておいて・・
 知っとる?あの子なっ。香織の親を・・・』

ゆりはたまたま聞いてしまった。

クラスでは浮いていたが
クラブでは仲のいい子もいた。
だけど仲のいい子にも無視され始めた。

香織さんは一度
『ゆりをいじめるのはやめてッ!』
と部員の前で大声で叫んだことがあった。

それから目に見えるいじめはなくなった。
しかし心に感じるいじめが消えることはなかった。

ゆりはコンクールに行かなかった。
それ以後、クラブにも行かないようになった。

ある日、机の上に落書きがされていた。
『殺し屋 ゆり追放』と書かれていた。

ゆりは勇気を出して『誰がやったん!!』
と大声で叫んでも皆、無視だった。

日が経つごとにゆりは荒れていった・・・
というより外見で近寄り難い
雰囲気に見せかけていた。
髪も染め、化粧もした。
学校では皆と違った行動をした。
ゆりのいじめはなくなったと同時に
みんなとの距離も今まで以上に離れた。
しゃべり掛ける人もいず孤独な学校生活だった。
教師の目線さえも冷たく感じた。
香織さんとゆりはクラスが違う為
学校では話す機会がなくなった。

時折、他校の荒れた連中も
バイクに乗りゆりを遊びに誘った。

だが、ゆりは決して連中と遊ぶ事はなかった。

それはゆりには学校帰りに
必ず行く場所があったからだ。

ゆりは学校が終わると
必ずおばあさんの家に向かった。
もちろん部活には行きたかった。
しかし、私が側にいると香織が
またいじめられる・・
という思いから行かなかった。
ゆりにとって癒しの場所は
おばあさんの家だった。
部活で香織さんの帰りが遅い時は
ゆりが料理を作り、二人で食べた。
香織さんと二人で料理本を
見ながら作った事もあった。
三人で食べる食事は最高の時間だった。
二人は学校では会話する事は減ったが
ここではいろんなことをおもいっきり喋った。

ゆりは高校に行かずに働こうと思っていたが
香織さんの説得で高校に行こうと決めた。
二人で受験勉強もした。
互いに別々の高校に受かり
手をとりあい喜んだ。

高校生になり二人の会える時間は
この場所だけだった。
香織さんに好きな人ができ
相談にのった事もあった。


俺は香織さんの恋愛の話を聞いているうちに
電車の中で泣いていた
あの涙の意味がなんとなくわかった。


ゆりの話は続いた。


香織さんには同じ高校に通う
ずっと好きな人がいた。
幼なじみでゆりも知っている人だ。
保育園の時は一緒に互いの家で
遊ぶこともあった。

香織さんはずっと片思いのままだった。
ゆりには中学三年になって
初めてそのことを伝えた。

香織さんは亡くなる一週間前に
告白したが振られた。

『ごめん、お前・・・なんか重いんやわ~。
 地味で寂しいっていうか。。
 親父が死んでばあさんと二人。
 なんか重いんよな~
 あんなに仲のよかったゆりのことも
 いじめてたよなッ!
 まぁ、ゆりがあの日・・・
 あんなことしたからそれはわかる。
 まぁ、俺もゆりをあれ以来
 無視していたしなッ!
 関わりたくないやん。
 俺は、どっちかと究極の選択をされたら
 ゆりのほうがいいかなッ。
 地味なお前と付き合うって
 俺にとって重すぎるわッ!
 もしかして、罰ゲーム・・・
 俺、急いでるからッ』

こんな言葉と共に断られた。

あまりにも冷たい言葉に
香織さんはうつむくだけだった。

香織さんは泣いてゆりに伝えた。
ゆりも泣いた。
悲しい夜だった。

ゆりは高校の門前で
この幼なじみをずっと待った。
香織さんに伝えた言葉に腹が立ち
悔しくて眠れなかった。

とうとう会えた・・・。

顔を見たと同時に怒りの気持ちが
爆発しそうになった。
ここは門前で人目もある。
近くの公園まで彼に来てもらった。

『純也、香織に何を言ったん。。』
ゆりは落ち着いて聞いた。

『いや!別に・・・。
 あいつが俺のことを
 好きか嫌いか俺にとってどうでもええ。
 ただあいつなんかに興味がないから
 断っただけッ。何が悪いッ!』

素っ気無い表情で彼は答えた。

ゆりは怒った・・・。

『だったらッ
 お前が香織と付き合えばええやん。』

彼も少し苛立ち
ゆりに再び言葉を返した。

ゆりの目からは気づかない間に
涙が溢れていた。

『あんたにあの子の何がわかるん!!
 なんで家族のことを・・・。
 香織に興味がないならそれはしょうがない。
 だけど・・なんで・・・
 昔のことを思い出させることを言うのッ。
 なんで!!なんで!!
 香織はずっと苦しんでいたんよ。。
 なんで!!なんで。。。』

彼は耳をほじりながら
めんどくさそうに聞いている。 

 

『お前に言われたくないよ。
 お前こそ母ちゃんが死んで
 寂しかったんやろ。
 それであんなひどいことして・・・。
 近所の人も言っていたわ。
 最低やなぁ。。
 お前ともう話したくないし!
 関わりたくもないッ!!
 じゃあなッ。』 


・・・ゆりは何も言えなかった。

彼はゆりの肩を叩き、帰っていった。

彼は変わった。
昔はゆりと一緒に香織を
いじめから助けた時もあった。
だけど、今はその面影もない。
彼の背中を見て、ゆりは地面に
しゃがみこみ泣いた。


・・・・・・・・・・・


『健ちゃん!そんなことがあったんや。。』


俺はゆりの目をじっと見て聞いていた。


『こんな私でいいの。。』
ゆりは心配そうに聞いた。

『もちろんいいに決まってる。。
 何もゆりは間違ってない!!
 こんな私とか言ったらあかんで。。
 世間がなんて言おうと俺にとってゆりはゆり。
 俺らは俺ら。これからもよろしくなっ!!』

『・・・・ありがとう。。』

ゆりはニコッと微笑んだ。


俺は迷ったがゆりに
あの日のことを伝えた。

『あのなッ。
 電車の中で香織さん見た時、泣いてたんだ。。』

『香織さんは辛い気持ちやったと思うわ。
 香織さんの涙も
 ゆりの涙も悲しい涙やった。。
 でも・・・二人の友情で悲しい涙が
 温かい涙になったと思うわ!!』

『そうかなぁ。。
 香織も天国でそう思ってくれてるとええな。。』

『そう思ってる。。
 俺も今、温かい気持ちになったもん!!』

ゆりは微笑み少しホッとした感じにみえた。

『健ちゃん、このりんご甘いなぁ。
 八百屋のおじさん2個も
 おまけしてくれたんやでッ!!』

『得したな~
 もしかしてッ
 あそこの八百屋のおじさん・・・・・。』

二人は何気ない話に盛り上がった。 

第6章 思い出の場所

あれから2週間が経過した。

俺は順調に回復して
ゆりは毎日、病院に顔をみせてくれた。

明日から大部屋に移動予定だ。
最近、少し元気になり退屈な一日となってきた。

今日もぼんやり外を眺めていると
ドアをノックする音が聞こえた。

ドアの方を見るとおばあさんとゆりが
そっと顔を覗かせた。

『健ちゃん!おばさん連れてきたよ!!』

『あっ。おばさん!ありがとう!』

『健ちゃん、大変だったなぁ。。』

『はい。。階段から転げ落ちて・・・
 俺って本当にドジというか・・』

二人はおばあさんに心配させたくないので
階段から転んだと伝えてあった。

『りんご食べてな!』
おばあさんは微笑みスーパーの
袋に入ったりんごをくれた。

『ありがとう!!』

おばあさんと会うのは久しぶりで
いろいろな話をした。
ゲートボールの話。
近所のおじいさんの話・・・・。

そして、ゆりの話もした。
ゆりは毎日、おばあさんの家で夕食を作り
二人で食事をしている様子だ。
昨日も俺が少しずつ元気になっていると
嬉しそうに話していたらしい。

『健ちゃん、また治ったら家に遊びに来てな。。
 待っとるからな!
 今日は近くまで来たで墓参りに行ってくるわ!』

香織さんとご両親のお墓は病院から
歩いて10分位の場所にあるそうだ。

『おばさん、俺も行ってもええかな・・・』

俺はナースコールを押した。
看護師に聞くと短時間の外出ならば・・
ということで外出が了解された。


ゆりに肩を支えてもらい車椅子に乗り
病院の外へ出た。

蒸し暑く、太陽が眩しい。
久しぶりに外の空気を感じた。

病院から500メートル位歩いた所に
お寺がありそこにお墓があった。
桶に水を汲み、お墓へと向かった。

『今日も暑いなぁ・・・』
おばあさんはお墓に優しく話し掛けた。

『新しい花が供えてあるわ!
 誰か来たんかなぁ。。』

『私。。 健ちゃんの病院から近いし・・・』

ゆりは病院に寄った帰りに
いつもここに来ていた。

『ゆりちゃん、ありがとうな!!』

ゆりは静かに微笑んだ。

三人はお墓に手をあわせた。

俺はゆりの優しい気持ちに癒された。

『健ちゃん、ありがとうな。。
 嬉しいわ。ありがとうな!!
 私なッ、ゆりちゃんと健ちゃんが
 いてくれるから元気なんやで。。
 いつもありがとう!ありがとうな!!』

おばあさんはにっこり微笑んだ。

『俺もおばさんが元気でいてくれるから
 元気な気持ちになれるんやで~』

『うん、私も同じ!
 おばさんありがとうな。。』


三人の上には透き通る青空に
スッと長い飛行機雲が浮かんでいた。

おばあさんは病院の近くに住む友人に
久しぶりに会うのでここで別れた。

ゆりは俺の車椅子をおし病院へと向かった。

『健ちゃん、痛くないの。。』

『そらぁ、ギブスしてるから少しは痛いで。。
 だけど、だんだん良くなってきてるしな!!』

『ありがとう!!
 本当やったら私が入院していたかもしれん。 。
 健ちゃんが守ってくれたから・・・。』

俺はどう答えようか少し戸惑った。

『・・・ああ。そうだとも!
 正義の味方~木下健介!!
 大切なゆりと大事な宝物!
 二つも守れてこれだけの怪我ですんだんや!!
 きっと神様が俺らの味方
 してくれたんやと思う。。』

二人は缶ジュースを買って
近くの公園に寄り道した。

そして、いっぱいいろんな話をした。

急にゆりがダルマさんが転んだをしようと
言い出した。

俺もはしゃいで車椅子のまま 木に顔をつけ
『ダルマさんが転んだッ!』と言った。

ゆりはゆっくりゆっくり近づいて来る。

俺も童心に帰り、夢中で振り返る。

二人とも心の底から笑った。

『健ちゃんといると楽しいわ・・・。
 ふたりでダルマさんしてても面白いッ!!』

『俺も楽しい!!またおばさんも
 一緒にやろなッ!』

『そうだね!おばさんやり方わかるかな。。』

『わかるって・・・二人で説明しよう!』

『そうやな。。
  ・・・・・健ちゃん、今日はごめんなっ!』

『えっ。。何がごめん。。』

『あぁ、何にも。。。』


俺はゆりの『ごめん!』が少し気になった。


二人は病室に戻った。


俺はベットに横になり少し眠った。
目を覚ますと部屋の中は夕焼けで
オレンジ色に染まっていた。
横を見るとゆりも椅子に腰を掛けたまま
眠っていた。

ゆりの寝顔は優しい顔をしている。
いろいろなことがあった。
辛い日々もたくさんあった。

ゆりを幸せな気持ちにしたい。
喜ばせたい。
一緒に歩きたい。。
ずっと一緒にいたい。。

俺はゆりの優しい寝顔をみて
そう思った。

しばらくしてゆりは目を覚ました。

『ごめん。。健ちゃん。寝てしまったわ。。』

『ああ。俺も少し寝てしまった。
 ダルマさんで疲れたんかなぁ。
 思いっきりはしゃいだでな~』

『そうやなッ。健ちゃんの足が
 治ったらまたやろな。
 今度は私が鬼になるからなッ!』

ゆりは立ち上がり
窓の外を眺めた。

『健ちゃん、すごい~夕焼け綺麗!!』

肩を支えてもらい外を眺めると
空一面がオレンジ色に包み込まれ
太陽が山に沈んでいく瞬間だった。

『綺麗やなぁ~』

二人は空の鮮やかさに言葉を忘れた。


そして自然に向き合いキスをした。

二人にとって初めてのキスだった。


あれから1週間が経過した。


俺は六人部屋に移っていた。

ゆりは夏休みということもあり
朝早くから夕方まで病院にいた。

あまり大きな声で話すことができず
静かに座っている。

そこで俺が静かに話し掛けた。

『ゆり、明日、フルート持って来いよ。。』
『えっ?。。わかった!』

二人は小声で会話しにっこり笑った。


翌日、二人は病院の屋上にいた。

『健ちゃん、どうしたんこのギター。。』

『これさぁ。
 リサイクルショップで売っとったみたいで・・
 母さんが買ってくれた!!
 しかも2000円やでッ!!』

『もうそろそろ誕生日に向けて
 練習しなきゃなぁ!!』

『また、一緒に練習できるねッ!!嬉しいッ!!』

ゆりはフルートを吹き
俺はぎこちないギター演奏を始めた。

『涙晴の空』だ。

二人はおばあさんの誕生日の為に
この日から練習を再開した。

澄んだ青空の下で演奏した日もあった。
夕焼け空を見ながら演奏した日もあった。

いつだって空に見守られながら
二人の小さな夢に希望を抱いていた。

ゆりの演奏は俺にとって
病院にいる寂しさを癒してくれた。


あれから数週間が経過した。


俺は退院し、リハビリの成果か足の骨も元に戻り
松葉杖はほんの支えだけになってきた。

二人は学校の帰りに駅のホームで待ち合わせ
電車を降りると必ずゆりが
ベンチに座り待っていた。

二人が階段を降りようとした時
俺の肩を誰かが叩いた。

駅員の牧野さんだ。

『久しぶりやなぁー!足、どうしたんや。。
 大丈夫か?』

『あぁ。。ちょっと転んで・・・』

『そうか。。階段は特に気をつけてなッ!!
 俺の肩につかまり!!!』

ホーム全体に響く位、元気のいい声だ。

俺は牧野さんの肩につかまり
ゆりが後ろで背中を支えながら
ゆっくり階段を降りた。

『俺がおる時は声かけてくれな!!
 肩ぐらいやったらいつでもかすから!!』

『ありがとうございます!!』

二人は改札口を出た。

『健ちゃん、待っとって。。』
そう言ってゆりは駐輪場へ走って行った。

『健ちゃん、久しぶりの二人乗りやなぁ!!
 しっかりつかまるんやでッ!!
 つかまらんだら~落ちてしまうよ~~』

ゆりがペダルを漕ぎ、俺が後ろに座り
松葉杖を横にしながら
おばあさんの家へ向かった。


ゆりは、思いっきりペダルを漕いだ。


爽やかな風だった。


おばあさんの家に着いた。

もうすぐ香織さんが亡くなって
1年が経過しようとしている。


二人は家に入ると
すぐに仏壇に手をあわせた。

『ありがとうな。。
 ゆりちゃん・・・健ちゃん。。
 いつもありがとう。。』

おばあさんは
何か寂しそうな表情をしている。


沈黙の時間が続いた。


しばらくしておばあさんはタンスの中の
老人ホーム案内のパンフレットを取り出し
自分の気持ちを伝え始めた。

『あのなぁ。私・・
 老人ホームに行こうかと思っとるんよ。。  
 ここやと料理も出るし、世話もしてくれる。
 ゆりちゃんと毎晩、食事をするのは
 もちろん楽しい!
 だけど、いつまでも・・・
 ゆりちゃんの世話になるのは悪い・・・
 前から思ってたんよ。。
 ゆりちゃんには
 ゆりちゃんの人生がある。』 

『おばさん、私はおばさんといると楽しいよ!
 私はここの場所が大好き。
 おばさん!おばさん!!』

『でもなッ、おばちゃんは
 ゆりちゃんの人生を大切にしてほしいんや。。』

二人の頬には涙が流れていた。

おばあさんの誕生日の
2か月前の出来事だった。

おばあさんは素直な気持ちをいっぱい伝えた。
そしてゆりは納得した。

『ゆりちゃん、健ちゃんとの
 思い出は私の大切な宝物。。
 この宝物を胸に老人ホームで暮らすわ。。』
 
そう言いながらおばあさんは
にっこりと微笑んだ。

その顔はどことなく寂しげにもみえた。

二人は公園に向かった。

ゆりはうつむき寂しげな表情をしている。
カラスの鳴き声が虚しく響く。

『ゆり。。おばさんが決めた事や。
 これもおばさんの生き方かもしれん。
 別にずっとおばさんに
 会えないわけじゃない。。
 いつだって会える!
 おばさんの誕生日、盛り上げよう!!
 おばさんを喜ばしてあげよう!!
 それが俺たちのできることかもしれへん!!』



しばらく沈黙が続いた。



『そうや。。そうやなッ!!
 それが私たちの今できることかもしれやんな。』

ゆりは静かに微笑んだ。

それから二人は日が沈むまで
演奏の練習をした。


あれから数日が経過した。

2週間後におばさんが老人ホームに
入居することが決まった。
そしておばあさんの家が壊される日も決定した。
家の中には家具や日用品がたくさんあるが
老人ホームには必要ない。
近所の人たちが日用品を貰いに来ている様子だ。
俺とゆりも学校が終わると
引越しの手伝いをした。

手伝いに来ている近所のおばさん数人が
ひそひそ話をしていた。

『あの子のせいで秋野さん、可哀想にな。。』
『なんで、あんな子がこの家にいるの・・・』
『・・・あの子が・・・
 殺したようなもんやで・・・』
『えっッ。そうなんだ・・!
 そんなことがあったの・・・』
前から住んでいる人たちが
引っ越してきたばかりの人たちに
昔の出来事を説明していた。

俺はたまたま耳にした。

悲しかった。
寂しかった。
悔しかった。

そして俺はそのおばさんたちに
思っている気持ちを吐き出した。

『あなたたちに何がわかるんですか。
 ゆりは・・・ゆりは・・・
 おばさんが大好きなんです。。
 おばさんが大好きなんです!!
 あなたたちにあいつのつらさ・・・
 おばさんの気持ちがわかるのですか。。
 おばさんの幸せを今、一番心から願っているのは
 ゆりだと思います・・・・・・・・・・・・』


目からは自然に涙が溢れ
何を言っているかわからなかった。

ただ、今まで押さえ込んでいた気持ちが
心の中で爆発したような感じだった。


振り返ると後ろにはみんなに配るジュースが 
入った袋を片手にスーパーから帰った
ゆりとおばあさんが立っていた。

おばさんたちは間が悪そうに
そそくさと台所の方へ行った。


ゆりはずっと聞いていた。


『健ちゃん、もうええって。。
 健ちゃんだけでも私のことを
 わかってくれてたらいい。。。』

静かにそう囁いた。

おばあさんは台所の方へ早足で行った。

『あんたら、ゆりちゃんのことを
 悪くいったら承知せんでッ!!!
 ゆりちゃんは香織の親友。
 そして私にとって孫みたいなもんやッ。
 あんたらは昔話のように話すだけやけど
 ゆりちゃんは私に1番親切にしてくれてる。
 あんたらは人の陰口言ってるだけやッ。
 出て行ってッ!!』

おばあさんも涙を流しながら怒った。


おばさんたちは台所にあった日用品を持ち
気まずそうに無言で帰っていった。


三人は泣いた。
悔しかった。


『おばさん、ありがとう。。』

『健ちゃん、ありがとう。。』

ゆりは声を震わせながらうつむいていた。

『ゆりちゃん、当たり前やん。。
 あんたは何も悪くない!!
 私にとって大切な孫。。
 これからもずっと・・・・』

『おばさん・・・おばさん・・・』 

『ゆりは何にも悪くない!!
 おばさんありがとう。。
 俺も嬉しかった・・・・・』

『健ちゃん・・・・・』



しばらく沈黙が続いた。



『なぁ、三人でダルマさんが転んだしやへん!
 ゆりが鬼をしろよ。。』
『ええよ。。やろうッ。。』

『何。。ダルマさんが転んだって・・・』

『おばさん、やり方教えるなッ!!』

二人はおばあさんに説明し居間で
ダルマさんが転んだをした。

おばあさんは初めてのわりに上手だった。

『えっ。今、動いたで!動いた!!』

『動いてへんって!』

居間の中には大きな声が響いていた。

とても楽しかった。
三人は思いっきり笑った。

窓にはオレンジ色の夕日が照らされ
いわし雲がたくさん浮かんでいた。

あれから数週間が経過した。


俺は松葉杖もなく
普通に歩いている。

二人はおばあさんの
家の中を片付けている。
家の中も家具などが無くなり
広々としている。

ゆりは香織さんの部屋の掃除をすることにした。

部屋の中は香織さんが亡くなった日以来のままだ。
ゆりは久しぶりに香織さんの部屋に入った。

『健ちゃん、香織とここでよく遊んだんや。。  
 懐かしいなぁ。。』

二人が仲良くピースをしている
小学時代の写真が机の上に置いてある。

ゆりは懐かしそうな
そして寂しそうな顔をしていた。

おばあさんの誕生日の前日
ここで夜遅くまで練習したこと。
宿題を一緒にしたこと。
夏休みの工作を作ったこと。
恋愛について話したこと。
将来の夢を語ったこと・・・・

いろんな思い出を伝えてくれた。

ゆりは参考書や雑誌を紐で束ねたり
家具の中の整理をし始めた。

俺は軍手をはめて
1階にいるおばあさんの手伝いをしに行った。

家具の横に通学用の鞄が置いてあった。
ゆりは鞄を開けた。
鞄の中は事故の日のままだった。

その中に一冊のスケジュール帳があった。

ゆりはこれを開いた。

1階にいた俺は
2階にいるゆりを呼んだ。

『おーい、ゆり!タンス下に運ばへんかッ!!』

・・・・返事がない。

俺は階段を昇った。

部屋を見ると、そこには涙を流し
肩をすぼめるゆりの姿があった。

ゆりの前にはスケジュール帳が置いてあった。
スケジュール帳はゆりの涙で濡れていた。

『今日は喫茶店にひとりで寄った。
 今日、失恋した。
 ゆりと純也は付き合っていた。
 今日、公園で二人を見た。
 少し寂しいけど、しょうがない気もする。
 それに気づかなかった私が悪かった。
 ゆりには話してほしかった。
 ただ伝えてほしかった。
 小3の時もそうだった。
 お父さんに会いたい。
 ゆりはまた私の大好きな人を奪った。
 つらい。。』


そう書いてあった。 


香織さんが亡くなった日の日記だった。